ある青年のお話

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

ある青年のお話

私は社会人6年目。 新卒で中小企業に入社してから、ずっと同じ会社で働いている。 仕事は好きだ。 嫌いだと思ったことは一度もない。 同僚は優しいし、真面目だし、愚痴は少ない、一緒に働いていて楽しい人ばかりだ。 でも、実は転職を考えている。 新しいことに挑戦しようと思ったからだ。 転職は不安でいっぱいだ。 転職は初めてだし、面接は苦手だ、自分を雇ってくれる会社があるかわからない。 仕事の昼休憩、自信のない私に、仲の良い同僚が、ある青年の話を教えてくれた。 青年の一日の始まりは、いつも午後12時。 目を覚ましたあと、昼ごはんを食べて、映画を観る。 映画を観終わったら、昼寝をする。 次に目を覚ますのは、午後6時だ。 午後6時に目を覚ましたら、夜ご飯を食べる。 ご飯を食べ終わったら、また、映画を観る。 夜はいつも連続で2、3本観る。 だから、眠りにつくのは、いつも日をまたいで、午前2時。 映画好きなら、なかなか充実した一日だと感じるだろう。 しかし、一日はまだ終わらない。 眠りについてから1時間後、呼吸困難で目を覚ます。 息を吸っても、体に空気が入らない。 心臓の鼓動が耳まで聞こえてくる。 「死ぬかもしれない」 そんな言葉が頭をよぎると、呼吸は元に戻る。 呼吸困難になるのは一回だけではない。寝てる間は何回も起きる。 本当に眠りにつくのはいつも午前5時だ。 一日の始まりは、いつも午後12時。 「また午前中を無駄にしてしまった。」という罪悪感から始まる。 もちろん、一日中最悪な気分だ。 この青年は大学4年生で就職活動中だ。 自分に自信がなく、やりたいこともない。 いや、やりたいことはある。 やりたいことを実現する能力がない、そのことに気づいたらしい。 能力がないことはわかっている、しかし、やりたいことを諦めることができない。 つまり、理想と現実のギャップに苦しんでいる。 このギャップによるストレスが生活習慣を乱し、精神を不安定にしている。 青年が映画を観るのは理由がある。 「誰かの、何か素敵な言葉がきっかけで、考えが変わり、自分の知らない才能に目覚める。」 この奇跡を探しているのだ。 この奇跡があれば、やりたいことも諦められると思い込んでいる。 映画に大きなを期待して、現実逃避をしながら、青年は毎日映画を観続けている。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!