最終話

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最終話

 俺と母親、恭介は俺達がよく遊んでいた公園に喪服を着て集まった。特にお互いに会話することもなく散策をした。茉莉花の弔いとして。  俺は何もできなかった。あの日、家に帰ったら茉莉花はすでに半ば廃人になっていた。俺は遅すぎた。  夏真っ盛りの公園は日差しが強く、木漏れ日がギラギラと肌をさす。まるで俺の咎を責め立てるように。  茉莉花の好きだったブランコ。よくどちらが高くまで漕げるか競争したものだ。  俺は母親に言った。 「俺はこれから……この人と一緒に行くから、もう会えなイ」  そう言って恭介を紹介する。余計な情報を与えると彼女に危険が及ぶので名前は言えない。 「そうなの……。あなたはあなたの生きる道を見つけたのね」  母親は心持ち寂しそうに言った。 「茉莉花のこと、本当に申し訳なかッタ」 「いいの、累の所為ではないもの……」  ざあっと熱風が吹き抜ける。あの風の向かう先に茉莉花は居るだろうか。  柄にもなくセンチメンタルな気分になってしまった。実際の茉莉花は汚い豚の腹の中だというのに。  こうありたいと願うものと現実の乖離。しかし俺は現実の中で生きていくしかないのだ。現実の中の唯一の希望、恭介と一緒に。 「母さん、今までありがとう。じゃあ」  また、とは言えない。もう俺は恭介の個人的なボディガードとして生きていくことを決めた。そうすると俺の家族……残り唯一の大切な家族に危害が加わる可能性もあるから、ここで水沢 累は永久に死ぬことになる。 「累、さようなら」  振り返らずに、俺達は去った。  俺はもう二度と塁と呼ばれることはないだろう。  帰り道、車に乗り込むと外気温との差で体表面が湿るのを感じる。 「あれでよかったのか?」 「唯一の肉親だろう?」 「どの道書類上は水沢 塁は死んでいるんダ。そして桐谷 皓也がこうやって組と仕事をするには肉親なんている方が危険ダ。公安のこともあるシな。これでいいんだ……これで……」  唯一の肉親との関係を自ら断ち切り、俺は恭介と二人きりになった。これは自ら選んだ道なので後悔はない、が、やはり寂しさはある。  帰宅すると俺はそのままベッドルームに行っってベッドに寝転がった。 「ちょっと疲れタ……」 「休んでいろ、飲み物を持ってくる」  恭介は冷蔵庫からビールを持ってきてくれた。缶を開けて液体を勢いよく飲み干すと、暑い中歩いて熱った体に勢いよく染み込んでいく。 「ありがとう、恭介」  ビールによって弛緩した体が気持ちよくベッドに吸い込まれていく。冷房も効き始め、心地よい眠気に誘われた。 「お兄、わたちもやう!」 「茉莉花にはまだ危ないよ」 「やう!やうの!」 「も〜落っこちても知らないからな?」  ブランコが揺れだす。意外と強く揺らしても茉莉花は落ちなかった。六歳下の妹。とにかく可愛いってわけじゃあないけれど、まあ、遊ぶのはこいつと犬のマーリィくらいしかいないし、俺も兄貴だし、遊んでやってる。  この前は木のボリをやって案の定俺にくっついてきた茉莉花は木から落ちた……と言っても五十センチもない高さからだが。それに懲りて滑り台あたりで大人しく遊んでいればいいのに俺の遊ぶ遊びをとにかくやりたがる。  「お兄、お兄」と言ってはついてきて、「危ない」と言っても聞かない。これで茉莉花が怪我をして泣くと母さんに怒られるのは俺だから勘弁してほしい気持ちもある。でも母さんは「たった二人の兄妹なんだから仲良くしてね」といつも言ってくる。そう言われると、茉莉花の代わりなんてこの世のどこにも居ないから、まあ大事にしてやろうかなとか思う。  茉莉花もいつか好きな人ができて結婚とかして俺から離れていくんだろうな、と思うとちょっぴり寂しいからだ。  でも茉莉花は好きな人ができて、すぐに殺されてしまった。  茉莉花。  俺の力が足りなくて、俺の行動が遅くて、お前を死なせてしまった。  俺のせいで、茉莉花の未来は無くなった。  こんな兄貴でごめん。  ごめんな。  目覚めると、懐かしくてどこか悲しい夢を見ていた気がする。目元は涙で濡れていて、「ああ、本当に茉莉花を弔うことができたんだな」と思う。部屋を見渡すと恭介は俺の隣でずっと俺のことを見ていてくれたらしい。俺が起きると「大丈夫か?」と聞いてきた。 「ああ……大丈夫ダ……昔の夢を見ていた……茉莉花と遊んでいた時の夢ダ。  今まであまり思い出そうとしてこなかったから……初めて見たかもしれなイ。  あの公園でブランコをする夢だッタ。俺が「危ない」って言っても聞かなくてナ……」 「だからあの公園に行ったんだな」 「そう、近所のマーリィっていうでかい……子供から見たからデカく見えたのかもしれないけれど……ゴールデンレトリバーが居て、よく遊んでもらったナ。ボールを投げたらちゃんと持ってくるんだ……その犬はよく躾けられていて、最初は怖かったけどあっという間に友達になれたんダ。よく考えると妹との共通の友達って犬だけかもしれないナ」 「あの公園は平和な時代の思い出がたくさんあるんだ……だから恭介にもきてほしかッタ。来てくれてありがとう」  そう言うと俺は恭介を思いっきり抱きしめた。今度は絶対に守り抜いて見せる。すると恭介も力を入れて抱きしめ返してきた。  するとお互い自然に口付けをする。深く甘い口付け。互いの将来を誓うように力強くもある。 「ん……はぁっ」  俺が舌を出すと恭介がそれを口に含み、まるで口淫のような仕草で舐める。俺たちの下半身はもうすでに昂っていて、足を絡めあい、股間を擦り付けあっている。  恭介と俺は互いの服を脱がし合い、互いの性器を舐め合う姿勢をとった。恭介の性器からは濃い雄の匂いがしてたちまち俺の後孔は疼いてしまう。きっと恭介も俺の性器から匂いを嗅いでいるに違いない。それにすら感じてしまう。  俺は恭介の性器の幹の部分を舐め、焦らしてから先端にむしゃぶりついた。恭介は俺の袋を口に含み舐め転がす。ムズムズとした快楽が俺の孔を疼かせて仕方がないので、俺は指で孔を広げ、恭介にねだった。 「ん……ぅ、恭介、ぇ、こっち触って……」 「すっかり後ろに欲しがるようになったな」  そう言いながら恭介はベッドサイドからローションを取り出し俺の後孔に注ぐと、「自分で解して見せろ」という。 「う……、や、むりぃ……」  恭介のをしゃぶりながら自分の後孔を解すなんて恥ずかしすぎる。しかもこんなにはっきり見える体勢で。それでも恭介はローションを注いだっきり後孔には手を出さず、袋の裏から後孔までを舐めた。  それにたまらなくなった俺は思わず恭介の性器を口に入れたまま、自分の後孔を解していく。ぐちゃぐちゃといやらしい水音が響き、自然と腰も揺れてしまう。 「あ……う……んっ、は、あ、気持ち……っ」 「俺のちんちんしゃぶりながらオナニーするのがそんなに感じるか?さっきから先走りがすごいぞ?」 「うん……っおちんちんしゃぶりながらオナニーするの気持ちイイ……っ恭介、早くきてぇ」  すると恭介が俺を正面に向かせ、正常位で挿入してきた。 「中トロトロ……っ、最高」 「あ、ああああっ」  挿入された衝撃で軽く達してしまった俺を恭介は目を細めて見る。 「入れられた拍子にイったのか?エロいなほんと……っ」  そう言う恭介も余裕はあまりなさそうで、小刻みに律動した後すぐに大きな動きで俺を攻め立ててきた。 「あっ、やっ、だめ、……気持ち、イイ……っ」 「……っ」 「ねぇ……っ、恭介、俺の、顔に、かけて……っ」 「お前ほんとエロくなったな……っ、いいぜ、顔にかけてやるよ……っ」  そう言うと恭介は叩きつけるように腰を動かした後、性器を俺の眼前に持ってきて言った。 「最後はしゃぶれよ」 「うん……ん……っはあっ」  先端を思いっきり吸うと性器が口から外され、顔に恭介の精液を思いっきりかけられた。それに興奮してしまい、さっき放ったばかりの俺の正気は固く反り返る。 「今ので興奮したか?本当にエロい……」  恭介が俺の顔の精液を舐めとりながら言う。俺もそれを舐め、恭介の聖駅を味わいながら口付けた。 「次はどうして欲しい?」 「抱っこがいい……」  俺は恭介の上に乗ると対面座位の格好で繋がった。俺は恭介の顔にキスの雨を降らせる。 「恭介、好き、スキ……っ」 「俺もだよ皓也……っ」  ちゅ、ちゅ、とキスを繰り返しながらまったりとお互いを煽っていく。この体制は自分の体重がモロに結合部にかかるのでかなり奥まで刺さり、それが気持ちい。 「こうしてるとお前の重さを感じられていいな……っ」 「重さ?」 「なんつーか存在感を感じる……くっついてられるし最高……っ」  恭介の性器が俺の最奥をグポグポと愛撫するにしたがって俺も高まってきた。 「は、あ、……っ、いい……っ、出ちゃいソウ……っ」 「いいぜ……俺も中に出す……っ」 「あっ、なかに、だして……っ、あああっ!」  お互いに同時に達すると俺の最奥に恭介の奔流を感じる。俺は恭介の腹と顔に少しかかる勢いで射精してしまった。 「あっ……恭介、ごめん……」 「興奮してくれて嬉しいぜ?何より甘くて美味いしな」  そう言ってからした口付けは双方の精液の味が混ざり合った甘美なものだった。  シャワーを浴びてベッドに寝転び、お互いに体を寄せ合う。俺は恭介と、恭介は俺と歩いていく覚悟をした。それはきっと険しい道だし、どちらかが先に命を落とす可能性が高い。それでも。  共に生きたいと願ってしまった。双方をこの現実世界の灯火として。                             <第一部完>
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