青藍館の屋根裏

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 後日、私と先輩は自治会長の自宅に招かれ、青藍館の現所有者であるお孫さんにお会いする機会をいただいた。お礼の意を込めて菓子折りを持参し、可能であれば再度の探索の許可と、青藍館の清掃ボランティアも正式に申し出てみるつもりだった。かの有名な幽霊屋敷が現場となれば、うちのボラサー連はこぞって参加したがるだろうから、人手に不足はない。  事前に会長から聞いていた通り、お孫さんはフレンドリーな老紳士だった。ブリティッシュ・スタイルのスーツに、星形の銀細工のループタイが良く似合っている。 「今の若い子はあんな古びた家興味ないだろうと思っていたから、会長さんから話を貰ったときはびっくりしたよ。探検はどうだった?楽しかったかい」 「えぇ、それはもう!」  子供のようにはしゃぐ先輩の話を面白そうに聞いていたお孫さんだったが、話が屋根裏部屋のことに及ぶと、みるみる顔を曇らせていった。 「屋根裏部屋だって……?そんなもの……君たち、どうやって上がったんだい」  お孫さんの話によると、青藍館には設計図面上、確かにドーム型屋根の下に余剰空間があるらしい。しかし、そこに続く階段なんて最初からどこにもなく、それどころか部屋など存在しないというのだ。  私と奈神先輩が屋根裏に続く階段の話をすると、お孫さんは呆然と首を振った。 「工事の下見のために何度か入ったが、階段は確かに2階までしかなかったよ……見間違えじゃないのかい?」  そんなはずはない。屋根裏への階段は、一階と二階を結ぶ階段のすぐ横にあった。隠されていたわけでも、分かりにくい場所にあったわけでもない。  私たちは再度階段について話したが、お孫さんは上の空といった様子で「うん……そう……」と曖昧な相槌を打つばかりになってしまい、挨拶もそこそこに荷物をまとめて帰ってしまった。  数日後、青藍館の取り壊しが予定より早く始まった。あの日以降、お孫さんからの連絡はなく、自治会長でさえ工事の前倒しを知らされていなかったそうだ。  たまたま工事が始まって間もなくの青藍館を見た、という近所の人によると、青いドーム型の屋根の部分が真っ先に壊されていたという。  青藍館の跡地は今も、何もない更地のままである。 ──『青藍館の屋根裏』了──
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