ワンス・モア

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 夕日が差し込む廊下はまるで、紅茶をこぼしたかのような琥珀(こはく)色。  光の中で細かなチリがきらきらと揺らめいていて、きれいだ。  校舎の外から部活動をしている喧騒や、帰っている生徒たちのざわめきが届いてくる。そんな音に耳を澄ましながら、この中学校の養護教諭であるわたしは一人で廊下を歩いていた。   「────好きです」  ふいに聞こえた告白に、つい足が止まった。  ちょうど通りかかった窓が、少しだけ開いている。この窓の向こう側は、人気のない校舎裏だ。そこに生徒である男女二人が、夕焼けに照らされながら向かい合っていた。  女の子の声がまた届く。 「わたし、ずっと中嶋(なかしま)くんのこと好きだったの。……つき合ってください!」  おやおや、これはこれは──生徒の告白シーンを目撃してしまった。不可抗力だ。  ここは一階廊下の隅で、あまり人がとおらない場所だから、油断したのだろうか。あたりを見渡せば、やはり付近にはわたししかいなかった。  視線を戻し、足を止めたまま見つめてしまう。  これが出歯亀行為だということはわかっているが、聞こえてしまったので仕方ない。
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