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彼は大きな声を出しながら、生徒と一緒に外玄関から入ってきた。
「だからお前は、煩悩しかないのか!」
「だって仕方ないじゃんかー」
とたんに騒がしくなった。
「どうしたんですか」
二人を迎え入れると、坂本先生は体に合った大きな声で答えた。
「篠田先生、こいつ、女子のスカートに気を取られてボール顔にぶつけたんですよ」
その横で生徒はタオルで鼻を抑えたまま「風のイタズラに負けたんすよー」とつけ加えた。
「負けたのはお前だけだぞ」
呆れた坂本先生に生徒は納得しない、といった風につぶやく。
「それがおかしいんだよなあ。みんなもきっちり見てたはずだぜ? あの強風になびいた一瞬を!」
「ガン見してたのはお前だけだ。練習中に……まったく」
「なははは」
わたしもつられて笑ってしまう。
このやりとりは、信頼し合っているからこそできるだろう安心感に包まれている。
わたしは生徒を椅子に座らせると、ボックスティッシュを渡した。
「これで抑えててね。中には入れなくていいから。ああ、上は向かないでね」
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