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少年は、指示通りに鼻を新しいティッシュで抑える。彼の鼻血はすぐに止まり、驚いたことにもう部活に戻ると言い出した。そんなにひどい怪我ではなかったけれど、念のため安静にしてね、と声をかけると「大丈夫っす!」と彼は爽やかに笑って、去っていった。
生徒に置いてけぼりをくらった坂本先生は、やれやれと見送るとわたしに声をかけてくれた。
「ありがとうございます、篠田先生」
「いえ、これが仕事ですから」
答えながら、となりに立つ坂本先生を見上げた。わたしも低い方ではないが、坂本先生の長身には敵わないようだ。
穏やかにグラウンドを見つめる彼の横顔を見ているうちに、自然と言葉がこぼれていた。
「……それにしても、仲がいいんですね」
坂本先生に「え?」とこちらを見られて、ハッとした。
「あ、いえ、その。……さっきの子と、本当に打ち解けられているなーと」
しまった。教師たちには深入りしない、世間話も控えようというのがポリシーだったのに。
一度出した言葉を引っ込められるはずもなく取ってつけたように続けると、坂本先生がやんわりと目を細めてくれた。
「あいつらといると、楽しいんですよ」
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