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わたしはいつから、こうなってしまったのだろう。いつからこんな、いやな大人になってしまったんだろう。
何も知らない坂本先生は、グラウンドを見たままつぶやく。
「でも、ちっぽけじゃないからこそ真剣に悩んでいて。そんな姿に、俺もまた励まされてるんです」
「……励まされている?」
「はい。お前もがんばれよって、真剣に悩めよって、言われているみたいで」
グラウンドからわたしへ向けてくれた視線は、大人にしてはあどけない真っ直ぐさを持っている。
この人は、本当に生徒たちのことをちゃんと見ているんだ。
わたしみたいに、上っ面で業務をしているわけじゃない。本当に。真剣に。
(……それに比べてわたしは……恥ずかしい)
唇を小さく結んだ。
「……っと、すみません。何だか、勝手に語っちゃって」
突然、坂本先生がハッとして話題を切った。
「いえ。わたしから話しかけたんですから」
「そ、そうでしたかね」
彼は頭をかきながら、ふわりとタンポポの綿毛のように笑う。
「でも、嬉しかったですよ」
「え?」
「篠田先生に話しかけてもらえて。ほら、先生、俺ら教師とあんまり話さないでしょう?」
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