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彼女の背後で、ベッドを隠すカーテンが窓から忍び込んだ風によってなびいていた。
「中嶋くんに好きって言いたいけど、勇気がなくて……!」
ひときわ彼女の声が大きくなった、そのときだった。ガシャンッと響く音がした。
それはベッド柵が揺れた音だと、保健室の主であるわたしにはすぐにわかった。戸田さんも、音がした方へ驚いて振り返る。
奥の閉まっていたベッドのカーテンが、ゆっくりとスライドされた。そこから現れた人物に、やはり戸田さんの肩は小さく揺れてしまう。
「……な……中嶋……」
震える声をした戸田さんの表情は、わたしには見えなかった。
じつは数十分前、中嶋くんは熱を出したということで、保健室に来ていたのだ。
「しばらく寝てから帰りなさい」と言い残したわたしは職員室へ向かい、保健室でできる書類整理のプリントを持ってこようとした。そこで、戸田さんと出会ってしまったというわけだ。
うまくいけばこの二人を、また出会わせることができるかもしれない──そう考えたささやかなお節介が、まさかこんな事態を引き起こしてしまうとは思わなかった。どうすればいいのかわからず動揺を隠しきれない。
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