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「あれ、戸田じゃん」
先日、告白されていたサッカー少年だった。
彼は好きな相手が保健室にいたことに驚きつつも、心配そうに声をかける。
「なんだよ、戸田。具合が悪いのか? 大丈夫か?」
「だ……大丈夫」
心配する中嶋くんは優しいが、この場合体調の詮索をされるのは彼女にとって荷が重いだろう。
わたしはベッドメイキングもそこそこにして、奥から姿を現した。
「どうしたの」
「あ、先生。ちょっと怪我してさ」
そう言って、彼は右肘の擦り傷をどこか誇らしげに見せてきた。
「休み時間にサッカーしてたら、派手に転んじゃって」
「あらら。ちゃんと流水で流した?」
「うん。すっごくしみた!」
教師相手にも中嶋くんはくだけた物言いだ。
そんな彼の近くで座る戸田さんが「サッカーバカ」と柔らかく呆れていた。そんな彼女に中嶋くんは、じとりと目を向ける。
「おーい。怪我人には優しくしろよな」
「ほめたの。サッカー大好きねって」
「そうかぁ?」
「そうそう」
クスクス、と笑う戸田さん。
ぽりぽり、と頭をかく中嶋くん。
おやおや、とわたしは二人のやり取りを見つめた。
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