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どうやらこの二人は、両想いのようだ。見ていれば何となくわかる。
二人のやり取りは親しみがあって、ちょっとした緊張もあって、どこか幸せそうな空気だ。
フラれたあの女の子には残念だけれど、とてもお似合いのようにわたしには見えた。
(見ていて、微笑ましい)
心で思い、笑みが浮かぶ。
でもそれはきっと、卑屈なものだったに違いない。
そう。本当に微笑ましい────……嫌になるぐらい。
どうせ、その好きな気持ちも、いつかなくなるのに。
恋愛なんてしょせん、脳が見せる幻覚なのに。
あなたたち二人が今感じている「好き」も、いつか、消えてなくなるのに。
やたら冷静な頭で、わたしはそんなことを考えていた。
思い出すのは一年前。
以前の勤務先である中学校で、中年女性教師との立ち話ついでにそれは告げられた。
「山川先生と海野先生、結婚されるんですって」
「え?」
その一言に、当時のわたしは口をぽかりと開けた。
おしゃべりな女性教師は、ころころと言葉を続ける。
「式は九月ですって。何でももう妊娠しているとかで。お似合いでしたものねえ、あの二人」
「……はあ」
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