ワンス・モア

6/28
前へ
/28ページ
次へ
 どうやらこの二人は、両想いのようだ。見ていれば何となくわかる。  二人のやり取りは親しみがあって、ちょっとした緊張もあって、どこか幸せそうな空気だ。  フラれたあの女の子には残念だけれど、とてもお似合いのようにわたしには見えた。 (見ていて、微笑ましい)  心で思い、笑みが浮かぶ。  でもそれはきっと、卑屈なものだったに違いない。  そう。本当に微笑ましい────……嫌になるぐらい。  どうせ、その好きな気持ちも、いつかなくなるのに。  恋愛なんてしょせん、脳が見せる幻覚なのに。  あなたたち二人が今感じている「好き」も、いつか、消えてなくなるのに。  やたら冷静な頭で、わたしはそんなことを考えていた。  思い出すのは一年前。  以前の勤務先である中学校で、中年女性教師との立ち話ついでにそれは告げられた。 「山川先生と海野先生、結婚されるんですって」 「え?」  その一言に、当時のわたしは口をぽかりと開けた。  おしゃべりな女性教師は、ころころと言葉を続ける。 「式は九月ですって。何でももう妊娠しているとかで。お似合いでしたものねえ、あの二人」 「……はあ」
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加