10人が本棚に入れています
本棚に追加
まくし立てる彼女の言葉は、わたしの耳を素通りしていく。口の動きだけを、機械のように目で追った。
(何を言っているの? だって、山川先生は…………わたしと……)
まあ、ようするに────二股されていた、というワケだ。
そんな浅はかな行動を、まさか自分の彼氏がするとは思ってもいなかった。
職場で知り合った、二つ年上の頼り甲斐のある彼は、中学の英語教師だった。先生や生徒からの信頼も厚く、教育熱心。人としても尊敬できる相手だった。
そんな彼が二股。
しかも両方同じ職場。
しかも学校という聖域で。
妊娠さえなければ、まだその関係を続けていたのか。それとも、もともとこっちが遊びであっちが本命か。……まったく、バカにしている。
今の新しい学校で勤めることとなったわたしは、以前のように笑えなくなり、教師陣とも一定の距離を保って接することにした。
もう、同じことをくり返したくなかった。
裏切られるくらいなら、最初から親しくしなければいい。
あんなに傷つく恋愛は、二度とごめんだ。
いやな思い出が頭の中で蘇っていると、ピピピッと体温計の電子音が鳴ったので、われに返った。
最初のコメントを投稿しよう!