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「熱はないみたいです」
戸田さんから体温計を受け取ると、わたしはすぐさま先生モードに頭を切り替えて、その数値をノートに記録した。
「ありがとう。奥のベッドを用意したから、そこで横になってて。あ、中嶋くんは絆創膏だったよね。貼るから、こっちきて」
「あ、大丈夫です。自分で貼るんで」
彼は絆創膏を受け取ると、椅子から立とうとした戸田さんに声をかけた。
「じゃあな、戸田。ゆっくり休めよ」
「うん、ありがとう」
ひらひらと手を振って、彼は保健室から出て行った。
それを見送ると、わたしは戸田さんに声をかけた。
「賑やかな子ね」
「……そうですね」
熱はないはずなのに頬を桜色に染めあげる戸田さんは、やはり彼が好きなのだろう。初々しい態度だ。
わたしも、こんな風だったのだろうか。
初恋なんて、もう随分前のことすぎて覚えていないし、ましてや最近の恋はあまりにも酷すぎた。
過去の恋愛を、思い出してしまったせいかもしれない。恋なんて甘い幻想に、まだ浸れている彼女に──ほんの少し意地悪をしたくなったのは。
「彼、人気があるみたいね」
「え?」
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