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「はぁ、はあ、はぁ、はあ・・・」
暗闇の中、私は走っていた。アイツから逃げている。アイツはニヤニヤしながら追いかけてくる。
(・・・た、助けて!誰か!)
階段を駆け下り、音楽室に逃げ込む。
「クソまりあ。何処に逃げても無駄無駄無駄。うちからは逃げられないよぉ」
アイツの足音が音楽室の前で止まる。
(助けて!)
目を瞑ってしゃがみ、震える肩を左右の手で抱く。
震える私の身体を誰かが優しく包み込んだ
「ゆゆ。僕だよ。僕を覚えているかい?」
男の子が私の耳元で囁いた。
「・・・なつき」
なつきは抱きしめた手を離して私の前にしゃがむと、私の両頬を両手で優しく覆って微笑んだ。
「そうか。僕のことを覚えていたんだね」
なつきがそういうと、辺りが光に包まれた。
私は眩しくて目を開けていられなかった。
しばらく経って、ゆっくり目を開けると、そこはT-Worldだった。
私はゆゆになっていた。
「うわ!何だよ。眩しい。何処だよ。ここ?」
アイツが少し離れたところでキョロキョロしながら立っていた。
なつきはアイツを指さして言った。
「ゆゆ。ここは僕の世界だ。キミは剣士だ。その剣でアイツを亡き者にする事はキミなら雑作もないこと。そう。簡単だ」
私はゆっくりと剣を抜き、刀身を見つめた。刀身は太陽の光を反射して、鮮やかに輝いていた。
「・・・アイツを亡き者にする?」
「そうだよ。ゆゆ。あんなやつ、生きている価値はない。そうだろ?まなも一撃で生きてる価値がないクズの頭をメイスで砕いたよ」
私は胃から込み上げてくるものを耐えられなくなり嘔吐した。
なつきはゆっくりと言葉を続けた。
「この世界は僕の世界。ゲームだ。この世界でアイツを亡き者にしてもリアルではそうなる訳では無い。肉体的にはね。ただ、死の痛みを経験したものは精神が壊れる。アイツが学校に来ることはなくなるだろうね」
私はいつの間にか、ガタガタ震えていた。なつきは私を再び抱きしめて言葉を続けた。
「ゆゆ、大丈夫だよ。怖くないよ」
なつきの温もりに包まれていると、安心感が身体を包んで震えが治まってきた。
「ゆゆ、今まで辛かったね。キミは何も悪くないんだ。もう我慢しなくて良いんだ」
私は剣を落とし、なつきに抱きついて泣いた。
「おいおい。何イチャついちゃってるわけ?クソまりあのクセに」
アイツの汚らしい言葉を聞いて、私はなぜか怖いほど冷静になった。なつきを見ると、なつきは優しく冷たい瞳をしていた。
私は剣を拾い上げると、アイツに向かってゆっくりと歩みを進める。
「うは。なんだその剣。引くわ。そんなおもちゃ、どこに売ってるんだよ。それにその笑える格好は何?マジウケるんですげど。あ。動画撮りてぇ。あれ?スマホがない?」
私はアイツの前にたどり着くと音もなく剣を振り下ろした。
血しぶきがアイツの頭を失った首から上がるとアイツの汚い言葉は聞こえなくなった。
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