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アレから5年の月日が流れた。
私はアレから学校に通い、何とか卒業して、今はスーパーで働いている。
それなりに毎日が楽しい。彼氏も出来た。
付き合って2年になる。
私は誕生日プレゼントを持って彼の家に向かっていた。
古びたアパートの2階へ続く階段を上り、1番奥の彼の部屋のインターホンを鳴らす。
インターホンの音が辺りの静寂を破る。
しかし、彼は出てこなかった。
何回鳴らしてもドアは開かれなかった。
ドアノブを回してみると、鍵がかかっていなかった。中で帰りを待たせてもらおうと暗い彼の部屋に入り、手探りで壁の電気のスイッチをオンにする。
6畳の狭い彼の部屋に置かれたベッドに彼は横になっていた。
彼の顔を見ると目を見開いて口をパクパクさせていた。
私は何故か冷静で、彼の頭をゆっくりと抱き寄せた。彼の顔を覗き込むが、何も反応がない。彼の瞳は私を捉えていなかった。
すると突然、頭に直接声が語りかけてきた。
「ゆゆ、ねぇ。僕のこと覚えてる?」
「だ、だれ?」
頭の中に流れこんだ声に驚きながらも、私は声に出して喋りかける。
何処かで聞いた声だ。
・・・。
「!!・・・なつき!」
「覚えていてくれたんだね。久しぶり」
声の主はT-Worldの管理者のなつきだった。
「えーと。ゆゆの彼なんだけど、昔、付き合って欲しいと告白されて、断った子がいるんだ。その子は彼の事が何年も忘れられずに彼をT-Worldに呼んだんだよ。それでまた告白したんだけど、彼は好きな子がいるから。と断って・・・。それで、彼は亡き者にされたんだ」
私は口を手で覆って呆然した。
「彼はもう戻ってこない。ゆゆ、もう一度、T-Worldにおいでよ。彼を亡き者にした子を教えてあげるよ」
まりあの瞳から涙がこぼれ落ちた。ようやく頭が今の状況を理解した様子だった。
まりあの頭の中で繰り返し語りかけてくるなつきの声がどんどん遠くなり、そして、まりあには聞こえなくなった。
完
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