仮の世界

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「ねぇ。僕のこと覚えてる?」 私と同じ、17歳位だろうか。 黒髪で、何処か幼さの残る整った青年の顔が私の瞳を覗き込む。 「ねぇ。聞いてる?」 吸い込まれるような彼の瞳を見つめ返し、私は答える。 「キミは誰?」 青年は一瞬、寂しそうな表情をみせて、ニコリと笑った。 青年は私の頬に短いキスをすると、すっと私から遠ざかっていく。それと同時にスマホの目覚まし音が何処で鳴り、段々音が大きくなると、私は眠りから覚めた。 ベッドから立ち上がり、机の上に置いたスマホを取り上げてアラームを止めた。 ふと、机の上の電源を落としたことがないパソコンの画面を見つめる。 少しお腹が空いたが、今日は朝ご飯は食べずにT-Worldを始めることにした。 新型VRのゴーグルをつけて再びベッドに横になる。このゴーグルはどういう仕組みなのかは分からないが、目の前だけでなく、人間の目の見える範囲と同じ視界が広がった。 Enterのボタンに合わせて左目を閉じるとT-Worldがウォンという音をたてて起動した。 T-Worldは、よくある剣と魔法のファンタジー系のMMORPGだ。私は剣士を選択していた。 「ゆゆちゃん、おはよう」 優しくおっとりとした声に私は振り返る。そこには、いつも一緒にゲームをしている回復系魔法使いの「まな」と攻撃系魔法使いの「さくや」が満面の笑みで立っていた。 2人とはT-Worldを私が始めたばかりの頃に知り合って、すぐに意気投合して、毎日、毎日、一緒にゲームをしている。 もうすぐ1年になるだろうか。 リアルの話もしたことがある。2人とも私と同じで、酷いイジメを学校で受けて不登校となり、このゲームを毎日やることになった。との事だった。 「今日は何をしようか」 さくやが2人の瞳を交互に見る。 「そうだね。私は2人と話がしたい。伝えたいことがあるんだぁ・・・」 まなが耳に髪をかけながら俯いて微笑む。 何か大事な話があるのだろう。と、何となく私はそんなふうに感じた。 「うん。話をしようか。さくや、いいかな?」 「もちろんだよ」 さくやも何か感じ取った様子ですぐさま優しく笑った。 3人は誰が言うわけでもなく、皆が大好きな街を一望できる「みはらしの丘」に向かった。
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