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「江流久くん、今平気?」
「えぇ、大丈夫ですよ。何か分かりました?」
香織里の声は明らかに疲れ切っていたが、それでもビデオ通話の画面越しに見るその表情は昔と変わらない正義感に燃えた瞳を宿していた。
「まず、七咲雪乃の作品だけど、全てかどうかは分からないけど大体集まったからデータで送る様にするわね。江流久くんパソコン持ってきてる?」
「流石香織里さん、仕事が早いですね。でも、すみません俺は持ってきてないんですが、寧衣良が持ってきてるはずなので後で寧衣良のパソコンに送ってもらってもいいですか?」
「もー!現代人なんだからパソコンくらい持ってきなさいよ?まったく。そこに寧衣良ちゃんいるの?」
「はいはい。あいつは今はいませんよ、どうかしましたか?」
「いやぁ?かわいい弟分の頑張りを労ってあげようと思ってね?江流久くん、ミステリー小説オタクで推理にしか興味のないあなたにしては良く頑張ったわね」
「褒めてないでしょ。全くどいつもこいつも」
「私は褒めてるつもりよ?江流久くん、寧衣良ちゃんと出会ってから顔つきも優しくなったもん。あの事件からいつも塞ぎ込む様な顔つきだったから、私ずっと心配してたんだからね」
「……それはどうも。それより香織里さん、他に分かったことはありますか?」
どうもこういった話題は苦手だと、江流久は頭を掻きながら無愛想に尋ねた。
「他に?そうね、江流久くんが寧衣良ちゃんのことを好きって……」
「あーーもう!その話はいいですから!事件についてですよ!」
まるで弟の初恋の話を聞く姉の様な微笑みを浮かべながら、香織里は画面越しに幸せそうにしている。
「失礼失礼。それで、七咲雪乃が遭難した際の殺された三人のアリバイなんだけどね、やっぱり2年も前の話だし中々はっきりとした証言を得ることができなかったの。でも我妻、あ、彼は学年も4つ上で、山野のいたサークルのOBだったんだけど、彼だけは確かなアリバイがあったわ。社員旅行で海外にいたみたい。出国履歴も確認できたし、同僚からの証言も取れてる」
「……我妻が?他の二人はどうですか?」
「残念ながらアリバイなし。まぁピンポイントでアリバイがある方が珍しいかも。それと残りの人物についてはね……」
「え?三人だけじゃなくて他にも調べてくれたんですか?」
「もちろん。私が江流久くんを助けられるのはこれくらいだもん」
「香織里さん、ありがとうございます。今度肩でも揉みますよ」
「江流久くんいかがわしいから遠慮しておくわ。あ、手のひらだったらマッサージしてもらおうかな、今回のことで疲れちゃって。それと話は変わるけど元町に紅茶の美味しいケーキ屋さんができたのよね」
香織里が画面の向こうで首を鳴らし腕を天井に伸ばしストレッチをすると、美しい焦茶色の髪の毛が胸の前で揺れる。
「はいはい。分かりましたよ。それで他の人物は?」
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