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江流久の部屋のベッドの上で、寧衣良は全身の力が抜けた様にうつ伏せになっていた。
楽聖島の事件で凄惨な現場を見たとはいえ、やはり滅多刺しにされた血塗れの死体は女子高生には刺激が強かったらしい。
あの後、現場に現れなかったスタッフ、宿泊客達の部屋を訪れたが、菊千、馬屋原、ひとみ、津久田はドアを叩くと部屋の中から現れた。
瑠璃だけは何度呼びかけても反応がなかったため、一同には嫌な予感が走ったが、絹笠の部屋で使用したマスターキーで鍵を開け部屋に入ると、下着姿の瑠璃がベッドの上でぐっすりと眠っていた。
部屋に戻った江流久は香織里とビデオ通話を再開していた。
「四人目の被害者が……。でも、寧衣良ちゃんが無事で良かったわ」
香織里は悔しそうにしながらも、寧衣良を労う言葉を画面越しに投げかけた。
「……状況を整理しよう。まず、寧衣良は部屋にいたところ、知らない番号からスマホに電話があった。電話に出たところ相手は慶一郎くんで、彼は部屋の電話から連絡をしてきたということだったな」
「……そうです。何でも携帯の電池が切れてしまったとかで。それで、前から言ってた、鹿が中庭に来たから電話をしたって言っていました」
寧衣良は顔だけを江流久に向け、横になったまま質問に答える。
「それで、お前は鹿を見ようと廊下に出た。そして窓から中庭に目を向けたところ、紅玉棟1階の窓がピンク色に光っているのに気がついた。そうだな?」
香織里は黙ったまま耳を傾けている。
「そうです。私、今日R-104号室の味覚の間に江流久さんと行ったじゃないですか?あの時、カーテンを開けて外を見たんです。それで、そう言えばそのままカーテンを閉め忘れてしまったのを思い出して……」
「お前、美術作品があるんだから、ちゃんとカーテンくらい閉めろよ。まぁいい、するとその真上の部屋、つまりR-204号室の窓ガラスに血飛沫が飛び散り部屋の電気が消えるのを見た。そして咄嗟に通話を切り、俺の部屋のドアを叩いた。ということだな?」
「雪の降る中でピンク色の睡蓮が綺麗だなと思っていたら、上の部屋の窓がいきなり赤く染まって……」
「つまり、その時点で犯人は絹笠殺害現場にいたっていうことになるわね。それで、急いで現場に駆けつけたところ鍵が閉まっていたと」
香織里は頬杖をついてペンを回している。
「えぇ。そして蔵前さんが持っていたマスターキーを使って鍵を開けたところ、ベッドの上で絹笠が亡くなっていた。そして、部屋の中にあった鍵は間違いなく絹笠の鍵でした。寧衣良が見つけた後、誰も触れる前に俺が手に取り、俺が確認しましたから間違いありません」
「つまり、密室殺人ね」
「そうです。蔵前一人を除けばね」
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