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「えー!?そんなの、そうしたら蔵前さんが犯人じゃないんですか?」
体を起こしてベッドの上に座り込むと、寧衣良が叫ぶ。
先ほどよりは少し顔色が良くなってきていて、江流久はその表情をみて安堵のため息をついた。
「単純に考えればそうなる。蔵前は今までの事件でもアリバイはないしな」
「え?それじゃあ決まりじゃないですか!」
「だが証拠がない」
「えぇー?だってマスターキーを持っていたのは蔵前さんだったんでしょ?」
「そうだ、だがそれはあくまでも状況証拠で、物的証拠じゃない」
「そうね、それだけでは犯人とは断定できないわね」
江流久と香織里の一致した意見に寧衣良は打ちのめされるが、ここでへこたれる寧衣良ではない。
「そしたらそしたら!何らかのトリックが使われたということですね!?」
「あぁまだ分からないがその可能性も捨て切れないっていうことだ。もちろん蔵前が犯人の可能性だってある。探偵っていうのは、常に色々なパターンを考えておく必要があるんだよ。覚えておけよ」
「むーー!私だってもう2年も助手やってればそれ位分かってますよ!江流久さんのばーか!」
「はいはい。痴話喧嘩はそれくらいにして、推理を続けましょう?そうだ、寧衣良ちゃんパソコン持ってるかな?江流久くんに頼まれた七咲雪乃の過去の作品をメールで送っておいたから見てもらえる?」
「はーい!ちょっと待ってて下さいね。えーと、メールメールっと……あ、ありました!これですね!」
慣れない手つきでノートパソコンを操作し、寧衣良は香織里から来ていたメールの添付ファイルを開く。
容量が多くデータを解凍するのに時間がかかる間、三人は一言も発しなかった。
窓の外の雪は再び勢いを増していて、一度は去った筈の死神が再びこのホテルの外を彷徨っている様に窓を打ち付けている。
隙間風が寧衣良の首筋を吹き抜け、ファイルのダウンロードが完了した瞬間、江流久の部屋の電話が鳴り響いた。
一瞬驚いたものの、江流久は右上腹部に嫌な痛みを感じながら受話器を取る。
このタイミングで電話をかけてくるなんて一人しか考えられない。
「……饗介か?」
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