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 電話の主が応える前に画面越しに香織里が反応した。  思わず身体を乗り出したせいで、スマートフォンをデスクから落としたのかビデオ通話の画面は暗転し、ドタバタと足音が響いた。 「饗介!?饗介なの?」  香織里の顔がアップになり画面に映し出されると、スピーカーボタンの押された電話機から愛を囁く様な甘美な声が鼓膜を震わせた。 「おや、その声は香織里かい?久しぶりだね」  香織里はその声を聞いただけで涙を浮かべ、口元を手で押さえ泣き出してしまった。 「これは困ったな。ほら香織里、もう泣かないで。にゃん丸は元気にしてるかい?」  香織里が泣いているのはお前のせいだと江流久は叫びたくなったが、喉元まで言葉が出たところを必死に抑える。  寧衣良は香織里の涙にあたふたとしながら、何と声をかけていいか思いあぐねいていた。 「饗介、聞いてくれるか、たった今4件目の殺人が起こった。俺は今、香織里さんと寧衣良とで事件の推理をしていたところだ。本当に癪なんだが、お前の力も貸してくれないか?」  言葉通り、腹わたが煮え繰り返りそうなほどの怒りを感じてもいたが、それでも三人に新人一人を加えた四人で話をできることにどこか喜びを感じている自分にも気がついていた。 「もちろん構わないさ。久しぶりだね、江流久と香織里と事件について話をするだなんて」  クスクスと聞こえる笑い声は、普段は感情を露わにしない饗介には珍しく本心から発せられている様に感じられた。 「……そうね、私からもお願い。そうだ、ねぇ、オンライン会議ツール使おうよ。お互いの顔も見られるし。今ちょうど七咲雪乃の作品を確認するところだったから。饗介、パソコンもってるでしょ?」 「あぁ、構わないよ」 「それじゃあ私がホストになるから!寧衣良ちゃんのパソコンにもアプリ入ってる?」 「えーと、ごめんなさい私このパソコン買ったばかりで、あんまり分かってないんですよ」 「お前はスマホ世代だしな。って言っても俺もトゥエンティーセンチュリーピアーのOSはあまり使ったことがないし」  江流久と寧衣良が顔を見合わせて悩んでいると、香織里が手を叩いて提案する。 「あ!それじゃあ私がリモートで設定してあげるから、今から送るメールのリンク開いてもらってもいいかな?」 「え?そんなことできるんですか?香織里さんすごーい!」 「IT機器の扱いも仕事のうちだからね、はい、じゃあメール送ったよ。そうそう、そのソフトをまずダウンロードして…………」  香織里が寧衣良に指示を出している間、江流久は饗介に話しかけた。 「饗介、お前今どこにいるんだ?」 「僕かい?どこにいると思う?」  江流久はスピーカーから聞こえる周囲の音に耳を傾けると、微かに定期的な電子音と排気音が聞こえてくる。 「…………病室か?」
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