2・地獄の業火

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2・地獄の業火

 教会の内部はほのかに薄暗くて涼しく、静謐な気配に満ちていた。クリーム色の煉瓦を組んだ作りで、見渡しても俺とジュリアーノの他には誰もいない。  歩くと思ったよりも二人の足音が床に響く。三十人ほどが座れそうな信者席の脇の通路を歩きながら、ジュリアーノが話しだした。 「ここに赴任していたマッテオ司祭とは長い付き合いなんです。あいにく今日、彼は留守なのですが、留守の間も入ってもいいと言われています」  静けさの中で彼の足音と穏やかな声が反響して聞こえてくる。俺はそれを聞きながら、物珍しく思ってあたりをきょろきょろと見渡していた。  高い場所にあるはめ込み窓から入る光が、控えめに聖像を照らしている。  簡素といったらいいのか、古びて色褪せた木製の聖人像が一つあるほかは、目立つものは何もない。窓のガラスすら、色付きガラスでもステンドグラスでもない。  信者席の他に、正面奥の主祭壇と木製の小さな十字架を取り去ってしまえば、ワインの貯蔵室だと言われても納得してしまいそうだ。  普段も閉じてるみたいだし、街の人が来てないのだろうなと感じた。人の集まる気配がまるでない。
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