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俺が彼を見つめる視線に気づいたのか、ジュリアーノはふと自嘲気味に小さく笑った。
「仕方がないんです。時代の流れのせいにはしたくないですけどね」
そういうジュリアーノの姿は世界で一人ぼっちみたいに見えて、俺はなんだか声をかけられなかった。安易な慰めの言葉は受け付けない感じがした。
「マッテオ司祭は私が辛いときに支えてくれました。この教会も大切な場所でした。彼が赴任先を移るのは心細いですが、それも仕方がないでしょう」
ジュリアーノは静かにため息をつく。無表情気味で堅い印象のある彼が、珍しく弱音を吐いている。
俺は信者席に気楽に座ると、通路に立っている彼の方を向いた。
「辛いとき? あなたにそんな時期があったの?」
そっと訊ねてみた。彼の口から彼自身の過去の話を聞くのは、初めてかもしれない。しかもその時に誰かを頼ったなんて想像ができなかった。
ジュリアーノがぽつぽつと語り出す。
「誰も信じられなかった頃がありました。養父に私が神父になることを反対されたときも。マッテオ司祭はずっと定期的に館に来てくれて、館から出ない私と話をしてくれました」
思った以上に、マッテオ司祭はジュリアーノにとって重要な人だったみたいだ。その話を聞いて俺は彼の養父を思い出した。
ジュリアーノは養父に育てられて、二人はとても仲がいい。しかし養父は彼が神父になるのをずっと強く反対していて、その件はもめている。
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