2・地獄の業火

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「アリギエーリ・ダンテによれば、天への道は、地獄から始まっているそうです」  すぐ側の目の前にいる俺に、静かな口調でささやかれる。 「私は救済よりも地獄の業火のほうが欲しいのです」  彼はひどく真面目な表情で俺を見つめてきた。冗談ではないようだ。  それを聞いて、俺は一瞬目を見開いてぽかんとした。  あれ、こいつ、何かおかしなことを言っている。理解が追いつかない。  動きが止まった俺の右頬を撫ぜ、ジュリアーノが微笑んだ。どこか影を感じる、面白げなものを見る目だ。 「愛欲にふける恋人同士は、死後に地獄の谷にゆくと言いますよ。私と一緒に堕ちてくれますか」  顔を寄せられて左耳にささやかれ、俺は真っ赤になって全身が硬直してしまった。  うわ、すごい殺し文句! 老若男女をメロメロにしそう。あのさ、この人って神父志望なのにこの色気はいかんのではないか? 危険すぎる。 「堕ちるって俺と?」  近すぎる距離に緊張しながら、俺は高まった胸の鼓動が伝わりやしないかと思った。  彼にもう一度ささやかれた。 「私と一緒に地獄の果てまで……」  言い終えると彼はわずかに目を伏せて、すっと身を引いた。屈めていた身を起こし、俺から数歩後ろ向きに離れる。    それから何事もなかったかのような涼しい顔で、通路を歩いて俺から距離を取った。急に互いに距離が空いて空虚感がただよう。
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