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そう言われた彼はわずかに嬉しそうに目を細めた。俺の反応を楽しんでいるのだろうか。頬をわずかに赤く染めて、こらえきれないように震えて小さく笑い始めた。
「はあ、カルロ。あなたは最高です」
振り返った俺は、また真っ赤になってぶち切れた。
「あなたはワケがわからないよ! 俺、ついてゆけないよ!」
それだけを最後に叫ぶと、扉の前に立ち、黒い鉄製の取っ手を握って力いっぱい扉を開ける。
雨上がりの爽やかな外の空気が流れてきた。野鳥の鳴き声がはっきり聞こえる。木々の葉の隙間から光がさして、雲間の空は抜けるように青い。吹き抜ける夏の風が梢を揺らし、緑の葉からは雨のしずくがたれていた。
外界の自然の音やぬくもりを感じる。やっと日常に戻った気がして、ほっとした気持ちになった。
「ふうっ……」
深呼吸して雨上がりの涼しい外の空気を吸い込む。それから後ろを振り返らず小教会の外に走り出した。後ろに残された青年にはさよならも言わない。林の中を通る道を小走りに向かう。
背後で教会の木製扉が閉まる寸前に、ジュリアーノの嬉しそうな声が聞こえた。
「また会いましょう、カルロ。いつまでも待ちますよ。共に地獄の果てまで」
ああもう! 誰かこいつを教会から出すなー!
雨の止んだ空を仰いで、俺は心の中で精一杯叫んだ。
俺はもう、雨の日には雨宿りなんかしないぞ!
(終わり)
次ページに後書きがあります。
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