1・稲妻のワルツ

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 立ち止まって教会に寄り、正面の数段の石段を登ってみた。わずかに屋根があり雨の吹き込まない場所が、正面ファサードにそって細くある。一人立って雨宿りは出来そうだった。俺は少しの時間だけ雨を避けるつもりで、教会の正面扉前のポーチにたたずんだ。  レンガを組んで造られた小さな教会は、人の気配もなく扉も閉まっている。黒い鉄の金具をつけた重そうな木製の正面扉を、手で押したり引いたりしてみたけど、鍵がかかってるようで開かない。 「誰もいないのかな?」  あきらめて、俺は握っていた扉の取っ手を離した。そもそもこの教会は名前すらちっとも聞いたこともないし、人が出入りしたり扉が開いているのも見たことがない。長期間閉まっているのかもしれなかった。  空を仰いで雨雲を見上げた。雨足も強くなって、当分降りやみそうにない。俺は正面入口にあるポーチで、雨を避けながら立ちつくしていた。  強い雨に打たれた木々が風に枝を揺らしている。大粒の雨はさらに強く激しくなっていき、さらに鋭い稲妻が光るのが見えた。雷雲が近づいてくるのか、稲妻の轟く音はしだいに大きくなってゆく。  雨に濡れるのは構わないけど、せめて雷がおさまってから家に帰りたいと思った。  ふいに背後の木製扉の金具がきしんで鳴って、鍵が開けられる音がした。 「カルロ」  後ろから自分の名前を呼ばれて、俺はものすごく驚いて振り返った。  分厚い木製の扉が、人ひとり通れるくらい外側に開いていた。薄暗く静かな気配のすっと冷えた室内の空気と一緒に、知っている青年が扉の内側に立っていた。黒い鉄の取っ手を握っている。
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