1・稲妻のワルツ

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 俺はむっとして彼を少し睨んだ。俺は童顔でちびだから、あんまり迫力はないかもしれないけど、ふくれっ面で返事をした。 「トラブルに巻き込むのもいい加減にしてよ。俺は忙しいの。夏休みが終われば俺も中学生だし、家の手伝いもあるし」  俺の家は家族で庶民的な食堂をやっている。夕方から夜にかけての夕食の忙しい時間帯は、厨房で手伝いをしないといけない。暇人の遊びに付き合う時間はない。    話題を変えて、俺は不思議に思ってたずねた。 「ジュリアーノは何でこの教会にいるの? ずっと館に引きこもりだと思ってた。外出もするんだね」  俺が知っているこいつは普段は町の外れにある貴族の館で暮らしていて、ほとんど外に出ない。正式な神父でもないと聞いた。彼がひとりで外出するなんて珍しい。  ジュリアーノは無表情でこちらを見ている。そうやって黙って立って見られると威圧感を感じる。彼は普通くらいの背丈だけど、俺の身長が中学生になるにしては低めだから、どうしても見下ろされる形になる。 「私が教会にいたら変ですか」  微笑みつつも少し冷たい声で青年が問う。金縁の眼鏡の奥の、灰色の瞳の中にわずかに暗い影が見えた。  俺は間髪入れずに軽い調子で手を振った。 「うん、変だよ。似合わない」  ジュリアーノは微笑みの表情のまま固まって沈黙した。その眼差しが凍るようになって俺を刺したので、ちょっと身がすくんだ。
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