門出

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門出

ごく一般的な家の庭木に止まった、やや大きめな水色の鳥が一羽。 クワッキリキーッー!!!! という奇声にも近い音を出した。 この大陸ではそれが朝の訪れを意味する。 それだけ叫ぶと、、バサッ!バサッ!!とさらにやかましい音を立てて水色の鳥:クワキリは飛んでいく。ネーミングセンス?なにそれ。 「朝か」 この大陸にはこれを目覚まし時計にしている者も少なくない。 なにせ、毎日殆ど決まった時間に鳴くのだから。 16歳の少年、ヴァルハラージ=ソレイムもそんな人間の一人だ。正確に言うと、毎日クワキリの喧しさで強引に目を覚まされるだけだが。 だが彼にとってこの朝はいつも通りというわけではない。 新たな学舎へ登校する、ワクワクドキドキな朝なのだ! というわけでウキウキな新入生ことヴァージこと俺です。 今日からシャルレーナ勇士育成機関兼魔術研究所、通称シャルレーナ学園へ入学する一般男子です。 部屋にあるパンフレットを手に取り、改めて自分がここへ通うことを実感する。 まぁ、めちゃくちゃ嬉しいの一言に尽きる。 なんたって学費・寮費無料。学食は市場価格を大きく下回っている。 そして何より全国最難関と呼ばれるだけの授業・研究レベルの高さ。 田舎者の俺が入れて、ウキウキしないわけがない。まぁ、ほぼ学年最下位だけど。 目は完全に覚めたので、取り敢えずルーティーンの洗顔をしに自室がある2階から1階へ降りる。 「ああ、ヴァルハラージ。おはよう」 そう俺をフルネームで呼んだのは、この家で唯一の同居人こと父。 俺の長ったらしいフルネームをそのまま言うのは父さんくらいだ。 「父さん。おはよ。今日は7時に出るから」 「食事はできてる」 「おっ。さんきゅ」 そう、母親はいない。 詳しくは教えてくれないから、よく知らないけど。 取り敢えず顔を洗って、水飲んで、パジャマのまま父さんと一緒にご飯を頂いた。 「なにか、目標あるのか?」 「友達100人」 「ほう。意外と難しいぞ」 「それと成績爆上げ」 「同じくらい難しいな」 「後、勇者になる」 「とんでもなく難しいことを言うなぁ」 これでも話すほうだ。普段は父子間で殆ど話さないのだから。 「ヴァルハラージのいない4年。寂しくなる」 「手紙くらいは送るさ」 「そうしてくれ」 あ、完全寮制の4年制ってことね。 「ごちそうさま」 「ご馳走様」 二人一緒にそう言って、皿を洗った後、俺はせっせと部屋へ戻って制服を着た。 皆も制服を着たことがあるならやったのではなかろうか。特に初日。 そう、一人ファッションショーを!!! 必死にポーズを決めたり、ブレザーを無駄に揺らしたり、声を作ったりして 「『ヴァルハラージだ。よろしく』」 とか 「『ま、俺に任せろよ』」 とかキメ顔でやっていると(思春期なんです) 「ヴァルハラージ?」 「おやおや、どうしたのかな?お父さん?」 ついそのノリで会話をしてしまった。 恥ずい。 どうしよう。 「そのキャラは、やめた方がいいんじゃないかと思わなくもない…ぞ?」 「で!?で!?何の用!?!?」 「ん、ああ。これ、お前の母さんが将来のお前にって残していったものだから。よければつけていきなさい」 そう言って手渡されたのは、水色のクワキリが付いたネクタイピンだった。 「…なんで?」 「クワキリは門出の際に縁起物として扱われる。ヴァルハラージが僕みたいに失敗しないよう、ってことだろうな」 「はぁ」 クッソ、旅立ちの日に真面目そうと思ってた父親がポンコツ疑惑出てきたぞ!?話聞きてぇけど時間ねぇ!! 「ま、嫌なら飾るなり、送り返すなりしてくれ。売ったり捨てたりしなきゃいいよ」 別に嫌いなデザインではないのでしっかりネクタイピンとして使うことにした。 荷物は事前に寮へ送ってるから、持って行くもの自体は少ない。軽いバックを手にし、大量の紙を切ったり線を書いたりしてよくわからない仕事?をしている父さんに別れの挨拶をする。 「んじゃ、行ってくるから」 「ああ。気をつけてな」 その言葉に頷いて、俺はドアを開ける。 いつもより、少し重い気がした。
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