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魂の管理人
桜の花が舞い散る頃、家が火事になって僕は死んだ。
・・・・・・
”ん?”
意識が戻り瞼を開くと空の上のような場所にいた。
”ここはどこだろ?”
「やっと目が覚めたようですね」
声のする方に顔を向けると白いドレスを着た僕よりも少し背の低い綺麗な女性が目の前に立っていた。
「旧名、真鯒健一様、はじめまして。私は魂の管理人をしておりますププレリウムと申します。この度はあなた様の転生の手引きをさせていただいております」
”魂の管理人? 転生の手引き?”
「あなた様は悪辣非道な放火魔の手によって焼死しました。そんなあなた様に於かれましては、付き合い始めたばかりの彼女さんとお別れになってさぞかし悔しい事でしょう。ですがこれが現実です」
”確かに……”
確かについ先日、中学2年に進級したその日にクラスメイトの三木谷詩織ちゃんに告白をして受け入れてもらえた。
だが、しかし、この状況下において僕について語ってくれるのであればそんな付き合い始めたばかりの彼女の話なんかどうでもよい事だと思うのだが・・・
例えば僕の突然の死に親友が悲しんでいた、とか、将来の夢が潰えて残念でしたね、とか、両親や家族の方々も皆寂しがっていますよ、とか、そお言ったことを語り掛けてくれれば良いのにと思う。
”ん? そお言えば、もしかして、家族もみんな死んだのだろうか?”
「確かに今の僕は彼女ができてすぐに死んでしまいました。そしてこんな死んだ僕の事を彼女が悲しんでいるかもしれません。でもしかし、そんな事より何より家族の事の方が心配です。僕の家族はどうなったのでしょうか?」
「そうでしょうとも、彼女と無理やり死に別れて悲しさのあまり発狂してもおかしくない状況ですよね。あの憎っくき放火魔の寿命が尽きました暁には、わたくし自らの手でグッチョングッチョンにしてケッチョンケッチョンにしてポイ! しますのでお任せください」
この女神さんはどうやら僕の質問に答える気が無いようだ。しかしまあ自分も死んでるわけだし今更家族の心配をしてもしかたないのかもしれない。
「僕はこれからどうなるのでしょうか?」
「そのことですが、この後すぐに別の世界に転生してもらう事になります」
「異世界転生ですか!」
「はい、そうです」
”何だかワクワクしてきた”
「転生先の世界はどんな所なんですか? 魔法とか有りますか?」
「はい、ありますよ。火、風、水、土、氷、雷、光、闇、回復の基本属性魔法があります。」
「それは凄いです。僕は魔法とか魔術とかの話がかなり好きなんですよ!」
「そうですか、それは良かったです。やはり地球人はその手の事に関して耐性があるので話が早いですね」
”それは地球人なのでは無く日本人だからだと思う”
「それでは転生に関して進めさせていただきます」
「お願いします」
「今から行かれる場所はマギアプラネタと言う惑星の南大陸にあるファイアーゴッド王国です。この国では火属性魔法が絶対有利で社会的地位と言うか階級が火属性魔法のレベルでランク付けされるのです」
「そうですか、そういう状態の場所に行くのでしたらぜひとも火属性魔法の能力を上げてもらわないと困りますね」
「はい、そのようにする予定です。火属性魔法のレベルをSSSにしてさしあげようかと思っております」
「そうですか、そうですか。ファイアランスやファイアーウォール、ファイアーメガストーム、フレームブラストエクスプロージョンが使えたりするのですよね。何だかワクワクします」
僕の表情は平静を装っているつもりだが、魔法が使えると言う事で内心は飛び跳ねたいくらい喜んでいる。なのでおのずと顔に出ているはずだ。
「では早速、魔法属性とスキルを付与したいと思います。私の前で跪いて頭を床に着けてください」
僕はププレリウムさんの前で跪いて額を床に着けた。すると彼女の片足が僕の後頭部に乗せられて呪文を唱え始めた。
死ぬまでもそうだが死んだ後に初めて女性の足が僕の後頭部に乗った。
そしてどこからどお見ても屈辱的な姿である。
「Δ§Ψ§ ΨΔΨΕ§ーーーーーー」
呪文と共に熱い何かが少しだけ後頭部から入って来るのが分かった。
「ん〜?」
ププレリウムさんが首を傾げている。
「何か問題でもありましたか?」
「そうですね、なぜだか解りませんが火属性魔法がSSSで付与できないのですよ」
「それはどお言った事なのでしょうか?」
「ん~ 思い当たる原因はただ一つですね」
「それは何ですか?」
「恐らく火事で死んだ時の記憶が心的障害となっていて付与できないと考えられます」
「え! じゃあどうすれば良いのですか?」
「そうですね~ 困りましたね~ 火属性魔法のレベルが初期値E、成長後Cならできそうなのですがそれでよろしいですか?」
「何だか低いですね、もう少しなんとかなりませんか? 例えば初期値はEでもよいのですが、努力して成長後最高でSSSになるのでしたら希望もあると思うのですよ」
「それはちょっと── あちらの世界ではレベルの上昇値は2段階と言う制限がありますので初期値がEであるならば基本はC以上あがらないのですよ」
最初の話よりも随分ショボクなってきた。だが僕にはどうする事もできないので受け入れるしかないようだ。
「わかりました。どうしても無理であるならばそれで妥協しますよ。但し他の、火属性魔法以外の魔法レベルを初期値S、最高値でSSSにしてもらえないでしょうか」
自分で言ってて何だが、けっこう無茶な事を言っている。
「わかりました、火属性魔法以外の全ての属性魔法の初期値をS、最高値がSSSまで上がるようにしておきます」
「えっ、いいんですか?」
「いいんです」
「ありがとうございます」
「後、特殊スキル創作魔法と特殊スキル情報収集、特殊スキル無限記憶領域、特殊スキル鑑定、それと普通スキル言語変換と普通スキル収納、普通スキル火事洗濯も付与しちゃいますね」
”ウォ!”
僕は頭の中で小踊りした。なぜならば創作魔法は僕の知識の中では最上級のチートスキルだからだ。この魔法は想像力次第で何でも作れるはずなのだ。
だが少し確認が必要だ。
「創作魔法なのですが、魔法で色々作る感じですよね?」
「はい」
「基本の属性魔法も作れますか?」
「いえ、基本属性魔法は作れません。ですので火属性魔法は作れません」
”やはりダメか”
”そういえば深く考えた事がなかったが魔法とスキルって違いがあるのかな? 特殊スキル、創作魔法とか言ってたけど魔法もスキルの内なのか?”
「質問してもいいですか?」
「どうぞ」
「今回というかこの場合と言うか、魔法とスキルの違いは何ですか?」
「それはですね魔法は魔力、MPを消費して事象を起こす事です。一方スキルは魔力を使用せず色々できちゃう事です。広義では魔法も特殊スキルではありますが、今から行かれる世界では別と考えた方がスムーズで解りやすいですね」
「しかし先ほど特殊スキル創作魔法と言われてましたよ、名称的に魔法とスキルが混合しているのですが?」
「よくお気づきになられましたね、そうです、今回は特別に創作魔法と言う特殊スキルにする予定です。本来大量にMPを消費してしまう創作魔法ですがスキル扱いにする事でMP消費無しで使用できるようになります。大がかりな創作は膨大なの魔力を消費しますからそのへんを考慮した結果です」
「そうですか、それはありがたいです」
「ついでに説明しますと、特殊スキル情報収集、特殊スキル無限記憶領域と特殊スキル鑑定ですが、この3つはセットで使うと便利ですよ」
「それはどお言うことなのでしょうか?」
「まず特殊スキル情報収集ですが、自分の魔力影響圏内の情報を根こそぎ収集することができます。その収集したデータを特殊スキル無限記憶領域で保存します。そして鑑定スキルを実行する事で無限記憶領域内に収められたデーターから必要な回答を導く事ができます」
”創作魔法よりもこの3つの特殊スキルの方が凄いかもしれない”
「何だか色々と気を遣ってもらって申し訳ないです。本当にこんな凄いスキルをもらっても良いのですか?」
「大丈夫です! 高ランクの火属性魔法持ちが絶対的に優遇される世界に送るのですから、これくらい無いとやってられないのでせめてもの花向けです」
「お心遣い痛み入ります」
「ではもう一度付与しなおしますので先ほどのようにしてください」
僕は再度ププレリウムさんの前で跪いて額を床に着けた。──今回も彼女の足が後頭部に乗ってきた。
”あ~”
何だかこの行為が病みつきになりそうだ。
「ΔΦΦΨ ΨΔΨΕ§ーーーーーー」
ププレリウムさんが再度呪文を発し始めた。すると頭の中に空を舞う風のような感覚が入ってきた。そして水に襲われて溺れたり、体を半分に割るような雷撃が走ったり、地面の中で身動きできなくなったり、凍てついたり、邪気が消えたり、この世の終わりのようなどんより感がしたり、疲労感が完全回復したりと次々と色々な感覚が体中を駆け巡った。そして最後に焼けるような熱い炎が体に流れた。
「どうやら成功のようです」
「ありがとうごぜいます」
「では転生前の準備が整いましたが、確認と補足事項も含めてもう少しだけ説明を続けますがよろしいですか?」
「はい」
「ではおさらいで火属性魔法に関して説明します」
「お願いします」
「今回、マゴチ様の場合、火属性魔法は初期値がEから始まって13歳の時点でレベルがCになります。これは他の属性魔法も同様なのですが、これから行かれる世界では属性魔法に関する成長が13歳で止まります」
「火属性魔法レベルがCで止まると言う事は僕は一生うだつの上がらない人生を送る事になるのですよね」
「そうですね、火属性魔法のレベルで優劣が決まりますので13歳になった時点で火属性魔法がCのままで固定されてしまうと底辺で生きることになります。──ただし抜け道が無いわけでもないです」
「抜け道ですか!」
「特別な昇級ができる限界突破方法を見つけることができればC以上に上がる事ができます」
「その限界突破方法を教えてください!」
「それは私の口からは言えません」
ププレリウムさんは下を向いた。そして僕に少し寄ってきて上目遣いで囁いた。
「全部教えてあげたいのですが、私の斜め後ろに設置されているカメラで上司が見ていますのでそうもいかなのです。察してください」
確かにカメラらしき物が浮いている。
どうやら必要以上の情報を語る事を禁じられているようだ。
「分かりました、その辺の事は僕自身で探ってみます」
僕が小声で言うとププレリウムさんが少し頷いた。
「それとスキルなのですが、こちらは最初からレベルを最高値にしておきます」
「ジリリリリリリリリ~」
けたたましく安っぽい目覚まし時計のようなベルが鳴った。
「それでは時間のようですので。これより真鯒健一様を惑星マギアプラネタ、南大陸南部、ファイアーゴッド王国、国歴2万5001年、収穫期中頃、第3魔法学園都市グロリオーサに転生させます」
ププレリウムさんが杖を上にかざした。
「ΦΦΔΨ・ΛΦΦΕ・ΔΨΔ§」
そして呪文を唱えると僕の後ろに光の扉が開いた。
「この扉の先が新天地です。それでは行ってらっしゃいませ」
僕は何かに突き押されるかのように扉の中に吸い込まれて行った。
そしてまた意識を失った。
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