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『どうしたの。随分と大人しいわね』
『あのね、ママ。ジャンヌは人間になれたよ。油塗れの優しいお爺さんのおかげで。勇気を持って、正直で優しい性格になったから』
女性はふっと小さく吹き出して、
『だったらあなたは、生まれてからずっと人間だったわね』
『ママ……』
『さあ、お茶会の準備をしなきゃね』
『やったぁ! 私人間になれたから、ママのお菓子が食べられるんだ! 嬉しい!』
早速焼きたてのマドレーヌに手を伸ばそうとしたジャンヌだが、女性は悪戯っぽく笑ってマドレーヌを取り上げた。
『こらこら。まだ熱いわよ』
『早く食べたいよ!』
『紅茶の用意をしないとね。手伝ってくれるかしら』
『うん!』
女性に甘えるように腰に抱きついたところで、映像はぷつりと途切れた。
ギデオンがジャンヌを見下ろすと、青い瞳から光が失われていた。
「本物に会わせてやれなくて、悪かったな」
ギデオンは疲れたように目元を擦って、ふと、真っ黒に染まった画面に白い文字が表示されていることに気がついた。
『ママはギデオンのこと、忘れてなかったよ』
画面には、写真立てを見つめる、先ほどの女性の姿が表示された。
拡大されたその写真には、今よりも若い姿の女性と、女性の肩を抱いて微笑む若かりし頃のギデオンの姿があった。
『最初は本当の娘のジャンヌの代わりだったけれど、ママは私をジャンヌの妹として愛してくれたの』
ギデオンは目を見張り、震える指で画面の文字をなぞった。
『人間の娘にしてくれてありがとう、パパ。ママも、お姉ちゃんも、パパも大好き!』
「ジャンヌ……」
枯れたはずの涙が頬を濡らしていく。
ギデオンは横たわるジャンヌの目蓋を手の平で閉じると、小さな左手に己の左手をそっと重ねた。
「お休み、ジャンヌ」
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