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「もう着ていいぞ」
「はぁい。どうだった?」
「残念なお知らせだ。お前はあと一時間で動かなくなる」
ぼろぼろのワンピースに袖を通したジャンヌは、目を見開いて、
「え~!? 困るよ、だって人間になってママのもとに戻らなきゃいけないんだよ? あと一時間でどうすればいいの? ねぇ、どうにか直せない?」
「ここまで動いてるのが奇跡だ。歩けるようにはしておいたから、好きなところへ行け」
ジャンヌは納得できないのか、椅子から立ち上がろうとしない。
ギデオンは、ジャンヌの視線を無視して、箱型ロボットの修理に取りかかった。
「ギデオンはひとりで、こんな場所で何をしているの」
「関係ねぇだろ。いいからさっさと行っちまえ」
「聞かせてよ」
ジャンヌは宝石のような青い瞳で、ギデオンを見つめている。
ギデオンは深いため息をついて、
「俺は昔から機械いじりばかりしていた。いつだって機械に夢中だった。そうやって機械に熱中していたせいで、娘の死に目に会えなかった」
手元からボルトがひとつ落ちて、目の前のロボットの丸い瞳が、まるで案じるようにギデオンを見つめる。
「娘は体が弱くて、外に出られなくてな。だから、せめて機械の友達を作ってやりたかったんだ。そのことが切っ掛けで妻と離婚して、今はもう会っていない」
「会いたいと思わないの」
「そんな資格はねぇんだ。ほら、さっさと行け」
「そんなことないよ。きっと、奥さんも」
「うるせぇ! さっさと出て行け!」
ギデオンの怒号が、薄暗いトンネルに反響する。
しばらく沈黙が落ちて、ギデオンは弾かれたように顔を上げた。
「おい、そこのダンボールの陰に隠れろ」
「どうしたの?」
「早くしろ。そこから動くなよ」
ギデオンは、戸惑いながらダンボールの後ろに隠れるジャンヌを確認してから、作業場の入り口を出た。
そこには、ドラム缶に蜘蛛のような八本の脚がついた姿のロボットがいて、ギデオンを見つけると、目と思われる球体を黄色く光らせた。
「お騒がせして申し訳ありません」
「機械の墓場に何の用だ」
「この地域周辺で、回収対象のアンドロイドを見かけたと通報がありました。シリーズ名は『ル・リオン』。人間の少女の姿をしていて、金髪に青い瞳をしているのが特徴です。このシリーズは不具合で傷害事件を起こしたため、正常に稼働している場合であっても回収します」
「知らねぇな。ずっと中に籠ってたんだ」
ギデオンは、右手をズボンのポケットに入れながら面倒くさそうに答えた。
ポケットの中には、ロボットを強制停止させるための小さな賽子のような装置を潜ませている。
ロボットの目が、赤く点滅した。
「警告。強制回収命令が出たアンドロイドを庇うことは重罪です。不具合のあるアンドロイドが被害を拡大させる恐れがあるためです。ご理解いただけましたら、居場所をお答えください」
「知らねぇって言ってんだろ」
「警告無視。強制回収に伴い、あなたの行動を制限させてもらいます」
ロボットはドラム缶のような胴体を開き、中から銃身を覗かせた。
ギデオンの心臓が大きく脈打つ。
ポケットから引っ張り出した装置が、果たして間に合うのか。
ギデオンが腕を振り上げるのと、銃口から光の弾が撃ち出されたのは同時だった。
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