お休みジャンヌ

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「ギデオン!」  ギデオンの前に、ジャンヌが飛び出した。 光弾に弾かれた彼女の体は、作業場の入り口近くまで吹き飛んでいく。 「ジャンヌ!」  ギデオンの投げた装置がロボットに接触し、ロボットが煙を上げて動かなくなったのを確認してから、ギデオンはジャンヌのもとへ駆け寄った。  ジャンヌの全身は黒く焦げて、顔の左半分以外人間らしい部分を失っていたが、ギデオンを見上げる左目は優しく微笑んでいた。 「ジャンヌは勇気を持って、正直で優しい性格になれたかな。これで、人間になれたら……ママのもとに帰っていい?」  ギデオンがそっとジャンヌの体を横抱きにして持ち上げると、彼女の体内を循環する薄緑色の液体が青い瞳から溢れ出た。 「ママ……ママ、会いたいよ」 「会わせてやる」 「本当に?」  ジャンヌの体を手術台のような鉄の机に横たえて、頭頂部を開き、ノートパソコンと繋がっているコードを接続する。  パソコン画面には、こちら心配そうに見つめる女性が映し出された。ギデオンと同じくらいの年齢の、品の良い女性だ。  ジャンヌがここにたどり着く前の映像記録だ。 『何かあったらここから逃げるのよ。今度こそ、私が守るからね』 『ママ……』  女性はジャンヌをキッチンの裏口の前に立たせると、慌てて玄関へと向かって行った。 『帰ってください!』  女性の怒りの声が響く。 『一度問題を起こしたシリーズは回収します。不具合を持っているかもしれないアンドロイドをそばに置いておくメリットはありませんでしょう。すぐに後継機を用意しますから』  女性を宥めるような男の声が聞こえた。 『後継機なんて必要ありません。あの子が私の娘よ! ちょっと、勝手に家に入らないで!』  キッチンに入って来る複数の足音に怯えたように画面が揺れた。 『ジャンヌ! 逃げて!』 『ママ!』 『対象のアンドロイドを発見。捕らえろ』  黒いスーツ姿の男たちが、一斉にこちらに銃口を向ける。  ジャンヌは転がるようにして裏口から外へ出て、何度か後ろを確認しながら全速力で駆け出した。 『人間だったら……私が本物の人間だったら、ママを悲しませずにすんだのに!』  ギデオンはしばらく険しい顔で画面を見つめていたが、慣れたようにプログラムコードを書き込み始めた。  すると、画面にジャンヌの家のリビングが映った。  主観映像の主であるジャンヌは、映像の中で戸惑うように部屋を見渡している。 『あれ? どうして私、家にいるんだっけ? ママは!?』 『ママはこっちよ』  ジャンヌがキッチンへ駆け込むと、先ほどの女性が、オーブンから天板を取り出すところだった。 『丁度、マドレーヌが焼けたのよ。少し冷まして、一緒に食べましょうか』 『ママ、怪我はない? 大丈夫なの?』 『え? ふふ、何度マドレーヌを焼いてきたと思っているの。火傷なんてしていないわ』  ジャンヌは呆然としたように、天板からマドレーヌを取り出す女性を見つめていた。
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