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そんな場所でのある日の朝。
洗濯物を干すために、ベランダに出て見つけた、黒く、どこかしら、しっとり濡れた感じの塊。
……うわー、ゴミやん。嫌な感じや。どこから飛んできたんやろ。
そう思って拾った瞬間、気付く温もり。
「うわぁ、これ生きとる! また鳥や!」
そう、思わず叫ぶ。そして「また」という言葉通りに思いだす、一昨年の春。
同じところに、同じ形で落ちてきた、巣立ちビナの哀れな末路―――。
カラスの餌になるために、連れていかれたあの巣立ちビナ。
あの時、感じた無力感。
幾晩も悪い夢として見るほどに、トラウマとなったその記憶。
『巣立ったばかりのヒナたちは、しばらくの間、親鳥と行動しながら飛び方やエサのとり方を身につけていきます。
そんなとき、まだ上手に飛べないヒナが、地面に降りていることがあります。……<中略>……手を出さず、その場を離れてそっと見守ってください』
―――日本野鳥の会 野鳥の子育て応援ページより抜粋
そうです。
野鳥は保護しちゃいかんのです。こんな山奥の環境に身を置いて、それを知らない訳はなく、隠れる場所を作ってやっただけでとどめ、見守るだけにしようと決めた、一昨年の春。
けれど、それを守ったがために、私自身にえぐい記憶が刻まれて―――。
「なんや、なんや、どないしたん?」
巣立ちビナを手に包み、立ち尽くして途方に暮れる私の背中に、我が息子の声が飛ぶ。
「どないしよう。雛、また、落ちてきてしもてる」
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