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人間に慣れたらだめだ、と思って、触る事だけはしなかった。
手を出したのは、親に帰そうとした時に、樋の上やベランダに出す時ぐらいで、それも手袋を忘れないように気を付けた。
鳥専門の獣医師に、診察を受けに行ったこともある。
結果は良好。どこも悪い所はなく、体重も順調に増えているようだった。
「できるだけ早く、親もとに戻してあげてくださいね。台風が来てるみたいだから、その後でいいけど」
そう言われたのは六月の中旬。
気持ちは焦る。しかし、その後も次々に来る大型台風―――。
気付いたら、すっかり七月になっていた―――。
そして、心の準備が欲しい『その日』はいつも突然訪れる。
七月五日の朝早く。
ありがたいことに、人手が足りてお休みだった日曜日。
ヒヨ子は相変わらず、元気だった。
ミルワームも買いためたものがまだまだあった。
いろんなことがあったけど、そろそろ日よりもいい頃だろう。
この次に来る大型台風、それが過ぎたらヒヨ子を放そう。
そんな風に思ったその日。
ヒヨ子はいきなり旅立った。
バタバタと羽をばたつかせ、開けた窓から、あっという間に飛び出したのだ。
「あ」
親子そろって、ヒヨ子が空を飛ぶのを見ていた。
隣の家の屋根にとまり、自分の住処だった場所を確かめるように、じっとこちらを見つめていた。
その時。
兄妹だろうか、幼いイソヒヨドリを二羽ともなって、ヒヨ子をまるで迎えに来たよ、というように親鳥たちが舞い降りてきた。
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