イソヒヨドリが落ちてきた日

1/8
前へ
/8ページ
次へ

イソヒヨドリが落ちてきた日

「あー……そうか。息子よ、覚えてるか? あれ、ちょうど去年の今日やわ」  朝、目が覚めてカーテンを開け、洗濯物を干すために二階のベランダに出る。  そして不意に、今日って六月五日だった。と気がついたのだ。  今日は、一年前ここに『あの子』が落ちていた日。  唐突だが、皆さんは『イソヒヨドリ』という野鳥をご存じだろうか。  1cfd7230-6ef1-44e5-a37e-11f2b7103dc9  姿としては、こんな感じ。  青い身体に赤いお腹。とてもきれいな声でさえずる可愛い鳥です。  その名の通り、ヒヨドリに似ています。  磯に住んでるはずの鳥ですが、最近では住宅地でもよく見かけるそうな。    我が家は山の天辺にあり、一つしかない生活道路が塞がると、完全に孤立してしまう、そんな所に建っています。  そんな環境を嫌がって、何かあっては次の配達に困るから、と本来なら配達圏の筈なのに、宅配ピザすら来てくれない。そんなリスキーな場所。  そう言うと「ぽつんと―――」という某テレビ番組に取り上げられるような場所を思い浮かべる方もいるかもしれません。街までバスで一時間、しかも、朝晩二便だけ……とか。  しかしながら、約九百世帯が並ぶ、いわゆる新興住宅地。バスも一応通っていて、一時間に一本あります。    この時期になると、ごみ捨て場の前で、 「ねぇ、奥さん。〇〇さんちの屋根の中に、熊蜂が巣をつくったんですって」 「じゃあ、屋根壊さないといけないじゃない。うちも昨年屋根の中に―――」 「熊蜂は木酢液がいいんですって。ペットボトルに入れてつるして置いておくだけでいいんですって」  なんていう日常会話が、今日はいいお天気ですねー、なんて話と一緒に出来てしまう、そんな不思議な場所だったりします。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加