22人が本棚に入れています
本棚に追加
わずかに光を取り込んだ薄いグレーの瞳が、真っ直ぐにこちらに向けられている。微かに眉根を寄せたその表情は、救いでも求めているかのように見えた。
外の光が柔らかく届くだけの、少し翳った室内。
少年のような無邪気さと、青年らしい色気を帯びた”彼”は、白いレースのカーテンが靡く窓枠に腰掛け、片膝を立てている。
柔らかそうな髪。瞳の色を少し濃くしただけの、色素の薄いその毛先が頬に落ち、膝の上にのせた顔をより神秘的に魅せていた。
息を呑むほど、美しい。
住永こはるは、スマホの画面をうっとりと眺める。
表示されている写真には、右下にカタカナで”ライジュ”と、謎めいた文字がいつもの通り刻まれていた。
とある時期から、ネットに出回るようになった、”彼”の写真。こはるがよくアクセスするサイトにも唐突にアップロードされ、その存在を知ることとなった。
写真を見た者はみな、そのあまりの美しさに感嘆と称賛のコメントを呟く。
けれど、決して表立って”彼”の写真が拡散されることはなかった。静かな熱狂は、閉じたアンダーグラウンドの世界でひっそりと伝播するだけで、外に持ち出そうとする者は誰もいない。
みんな、わかっていたからだ。
これは公にしていい類のものではないと。こはるもその事を理解している。だから、親にも友達にも共有せずに、自分だけで楽しんでいた。
見る者によっては”彼”のことを、天使のように純真な美しさと、またある者は悪魔のように背徳な美だと讃えた。
こはるは、後者だと思っている。写真を食い入るように見つめながら、ため息が出た。
写真の中の”彼”は、丈の長いローブを羽織っている。生地が透き通るほど薄い。その下には何も身につけておらず、華奢な体がそのまま写しとられていた。
開かれた前が晒され、足の付け根に存在している細長い突起が、上に向かってしなやかに反っている。
純真な美しさなわけがない。そんなことをのたまう人間は、”彼”にそうであってほしいと願望を押し付けているだけだろう。
男性のその部分を見たのは”彼”の写真が初めてだったから、そのあまりにもセクシュアルな姿に初めはくらくらと目眩を起こした。
ただこはるは、そういうものには興奮しない質である。性的な刺激がほしいからではなく、美しいから眺めたいのだ。
周りはもちろん、そんな話を信じてはくれないだろうけれど。
毎朝起きるとこはるは、”彼”の写真をネットで画像検索し、日々新しく投稿される新作を探し出しては、ライブラリに保存していた。
”彼”専用のフォルダの中には、すでに20枚を超える画像が溜まっている。
誰の写真なんだろう。
なぜこんな姿をネットにあげているのだろう。
新たに写真を見つけてくればくるほど、”彼”への興味は尽きなかった。
最初のコメントを投稿しよう!