ヴィラン

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 リキに抱かれた二日後、男は屋敷にやってきた。  まだ体がリキとのセックスを覚えていて、俺はまずいと思った。そしてその悪い予感は的中した。  俺は男に突かれながら精液を垂れ流すようになり、男はそれに興奮し、日に何度も俺の中で果てるようになった。  内側が男のもので満たされる感覚に吐き気を(もよお)しながらも、些細な刺激で感じるようになってしまった俺は、気持ちの悪さよりも快楽が上回り、結果、男をこの上なく喜ばせた。 「お前は、私が抱いてきた子たちの中でいちばん可愛いよ」  事後、男は毎回夢見るようにそうささやいた。はじめは無言を貫いていた俺だが、男は俺に、恋人のように振る舞うことを求めた。  何度、死んだ方がマシだと思ったことか。  愛想笑いをし、心を殺して愛をささやき、男にしがみついてキスをねだる。時には男のものを口で(くわ)え、男が出したものを飲むことを強いられた。  自分が自分ではなくなっていき、毎日男が訪れる恐怖に(おび)え、一睡もできない夜さえあった。  ようやく十夜を共にし、弟に会わせてやると言われた時には、俺の心は渇き切っていた。  久しぶりに施設の敷居をまたぎ、弟の姿を目にした時は、いろんな感情が込み上げて俺は大声をあげて泣いた。  弟は相変わらず純粋な眼差しで、俺を心配して狼狽(うろた)えていた。それでも施設の先生は、俺が弟を抱きしめることすら許さなかった。常にテーブル一脚ほどの距離を開けて座らせ、ふたりきりで話すこともできなかった。  面会時間は10分もなく、すぐに俺たちはまた引き離された。  あんな屈辱に耐えて身を汚して、愛しい弟とはゆっくりと語り合う時間も与えられないのか。  渇いた心はひび割れて、やがて砕けて破片となった。  施設を去る間際、先生はしみじみとした様子で言った。 「それにしても、しばらく見ない間にまたかっこよくなったわね。あなたなら弟じゃなくても、ちゃんと相手が見つかるでしょう。その顔に産んでくれた親に感謝なさいね」  横で聞いていた施設生たちも、うっとりとした顔でうなずいていた。 「肌つやもいいし、あの人にずいぶんよくしてもらってるんだね」 「きれいな男の子、から男の人に変わったって感じ」 「ライジュも美人だし、きっと美しい方の血を引いているのね」  俺に見惚れながら、好き勝手なことを言っている。  ・・・かっこいい?きれい?俺が?  むしろ汚されているというのに?  この時にはもう、心と体を切り離すことには慣れてしまったから、燃え上がるような感情を隠して俺は微笑むことができた。  人がどんな目にあっているかも知らないで。心の内側を見ようともせず、顔だけで人生の善し悪しを判断するのか。  どいつもこいつも外面しか見ないにも程がある。むしろ俺は、あいつが褒めるこの顔なんて死ぬほど嫌いなんだよ。  親に感謝しろ?親は俺たちを捨てたんだよ。  だからこんなクソみたいな人生歩まされてんだ。感謝なんてできるわけないだろ。ふざけんなよ。  親なんかどうでもいい。そんなやつ褒めるな。ちゃんと俺を見ろよ。  そして気づいてくれ。どれだけ俺が辛い目にあっているかを。    柔らかく微笑んだまま涙を流す俺を、先生たちは、ライジュに会えて感激しているのだと受け取ったらしい。 「またおいで」 「いい子にしてたら、きっとまた連れてきてもらえるよ」  ・・・頼むから。助けてくれ 「・・・またくるよ」  俺はそれだけを言い残して、再び男が待つ屋敷へと帰っていった。
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