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” 奇跡の兄弟! お母さん、お父さん、僕たち待ってるよ! ”
検索した児童養護施設のトップページに、読み手の涙を誘いたいという意図がバレバレな長文のメッセージと、見覚えのある顔写真が現れたのだからこはるは驚いた。
”◯年前からこちらの園で暮らし、そして一年前に巣立っていった織原翠音君と来樹君兄弟。その華やかで可憐な顔立ちからは想像もできない苦労をして、身をよせ合って生きてきた彼らは、逆境にも負けず、優しく健気に成長していきました。
いつか両親に会いたいという気持ちを忘れず、今日もたくましく生きています。
お二人のお母様、お父様、お二人に素敵な名前をつけたご両親ならば、この美しい兄弟の存在を、きっと片時も忘れたことはないでしょう。
翠音君と来樹君は、今でもお二人を待ち続けています。この美しいグレーの瞳を持つ彼らに、会いにきてあげてください。 ”
・・・なによこれ
メッセージの下には、まだ幼かったころの二人のツーショットが掲載されている。愛くるしい瞳でカメラを見つめ、幸せそうに微笑むふたり。右に写っている身長の高い方が兄のスオンだろうが、今の姿からは想像もできないほど純粋そうな目をしていた。
あの兄弟が、まさか親を探していたなんてびっくりだ。そのわりに、こんな山奥で暮らしているなんて意味がわからない。
それでは、見つかるものも見つからないだろうに。
スオンたちが捨て子だと聞いてから、試しにかの資産家がパトロンを務めるボランティア団体を検索していたら、3件目でヒットしたのがこのページだった。
実はウソをつかれたのではと疑っていたが、スオンはちゃんと本当のことをこはるに伝えていたらしい。
それにしても、このページに載っているのは昔の写真とはいえ、ネットには今のライジュの写真がひっそりと出回っているのだ。見る人が見れば、これがあのライジュだとわかるだろう。
・・・危険すぎやしないかしら。身元が特定されたらどうするつもりよ
出回っている写真にはライジュと文字まで入っている。スオンのことなどどうでもいいが、ライジュの正体がバレて、今後写真がアップできなくなってしまうことをこはるは恐れた。
外は雨で、今日は兄弟の家へは行けないが、もう一度会ったらスオンに聞きたいことができた。
・・・明日は止まないかしら
「こはる?今日はめずらしく家にいるんだね。なにしてるの」
後ろから兄の旭の声がした。
「今日は雨だもの。おとなしくしてるわ」
母親とかすみは二人で買い出しに、父は仕事で明日まで別荘を離れると言っていたから、今ここにいるのはこはると旭の二人だけだった。
旭はクスリと笑う。
「晴れていたらこはるはじっとしていないからね。おとなしくされると逆に調子が狂うよ」
なにを見てるの、と旭はこはるのスマホを指さして聞いた。
「この前、お兄さまとお姉さまが車で話していたでしょ。あの別荘の持ち主について、調べてみたらこんなものが出てきて」
こはるが画面を見せると、旭は感心した顔でスクロールしていき、兄弟の写真が現れたところで目を見開いた。
「へえ。これはまた」
こんなに美しい人が存在するのかと、旭は絶句する。
・・・そのうちの片方は、性格が最悪だけれどね
こはるは心の中でつぶやく。
「それにこの瞳、どこかで・・・」
兄がぼそぼそとひとりごとを言うのを、こはるは特に気に留めなかった。
「はあ。早く雨、上がってくれないかしら」
窓の外を見ながら、大きくため息をつく。天気予報だと明日は晴れるらしいが、山の天気は変わりやすく、どうなるかはわからない。
こはるはソファにもたれながら、ゆっくりと目をつむった。
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