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雨はその後、一週間降り続いた。
待ちに待った晴天が訪れ、久しぶりに兄弟の屋敷をたずねると、いつも元気にこはるを出迎えるライジュが、暗い表情でソファにしずんでいた。
「おはよう。元気がなさそうね。スオンは?」
出かけた、とライジュは言った。声までしぼんでいて、目の縁が赤い。泣いていたのだろうか。
こはるはライジュのとなりに腰をおろす。そっと前髪をすくい、ライジュと視線を合わせようとしたけれど、ライジュはぼうっとただ前を見ているだけだった。
「目、冷やすもの持ってきてあげましょうか」
こはるがソファから立ち上がろうとすると、ライジュが小春の手首をつかむ。指先が食い込んで痛かった。ライジュのきめの細かい白肌はいっそう蒼白になっていて、唇もほとんど真っ白だ。
「兄さんが、もう写真を撮らないって」
こはるは目を見開く。
「え?それって・・・」
「もうやめるって言ったんだ」
頭が真っ白になった。動揺して、うまく言葉が出せない。だが焦りは、次第に怒りへと変わっていった。
「ありえない。うそでしょう」
けれどライジュは首を横にふる。眉を八の字にして唇を引き結んだかと思うと、あっという間にその瞳は潤んで大粒の涙が目尻からこぼれおちた。
「なんで急に」
「兄さんはずっと僕のこと、嫌いだったんだって」
それだけは、ありえない。それは、スオンの様子を見ていれば明らかなことだった。
ライジュは泣きじゃくりながら、ぽつぽつと語り出した。こはるがスオンに写真を突きつけた、あの日のこと。
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「満足した?」
スオンは、自身とライジュの精液で汚れた手をタオルでぬぐいながら、ひどく冷淡な声で言った。
口元は皮肉っぽく歪んでいる。ライジュははじめて向けられるそのゾッとするまなざしに、ひっと悲鳴が出かかった。
「どういう、意味?」
ぎこちなく愛想笑いを浮かべながら問い返すと、スオンは何かに吹っ切れたように大きく息を吐いた。
「俺が好きだって言えば、お前は満足なんだろ、ライジュ。でもな、そんなのウソに決まってるだろ」
心臓に内側からノックでもされているみたいに、どくんと衝撃が体を弾いた。体中の全ての臓器がこわばってしまったかのように、どこもかしこもズキズキと痛む。
いつもと違う兄の様子に、これから自分は傷つけられるのだ、と察した。
「弟のくせに、俺に触れて欲しいとかさ。そういうこと言うの、もうやめた方がいいんじゃない」
「急に、どうしたの」
冗談だって、そう言って兄の瞳に優しい光が戻ることを期待した。でもスオンは、蔑む目を向けたまま、吐き捨てるように続けた。
「お前、小さい頃は女の子みたいに可愛かったからさ。俺もつい手を出しちゃったけど。もうそういう風には、お前を見れないよ」
血がぐんぐんと巡っているのに、体は恐ろしいほど冷えていく。
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