笑顔のその先 2

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隣を見上げると、別段にこりともせず淡々とした表情の冴木さんが同じように何も無いリビングを見ている。 颯介さんが一緒に来ちゃっていいの? 仮にも僕の前の旦那さん。 その人が亡くなってついこの間まで僕はその人を忘れられず、愛し続けた人。そして今も、僕の中に大事に生き続けている人。 そんな人が一緒に来て、冴木さんは嫌じゃないのかな? 愛する人のそばに自分じゃない人がいたら、普通は嫌だよね。ましてやその人の心に堂々と住んでる人なんて・・・。 「じゃあそろそろ行こうか」 今も僕に向けてと言うよりは、リビングに向けて言ったような・・・。 「冴木さんは嫌じゃないんですか?」 僕は思わず訊いてしまった。 「何が?」 「颯介さんが一緒で」 僕の言葉に少しだけ片眉を上げた。 「あの人の事は割とよく知ってるからね。そもそも彼とセットで君を好きになった訳だし、それが嫌だったらとっくの昔に君を諦めているよ」 そんな当たり前のこと聞くな、という空気を出しながら、さも当然のように答えるけれど、僕から見れば冴木さんの方が珍しいような気がする。 まあ、冴木さんがいいならいいんだけど。 そんなことを思いながら、僕は12年住んだその部屋を後にした。 僕は前回の発情期の時に冴木さんと番になる約束をして、今はその発情期待ち。その時に冴木さんにうなじを噛んでもらって、それからプロポーズをしてもらって、そして結婚する予定になっている。 なのでその準備として今日、僕が住んでいたマンションを引き払って、本格的に冴木さんのところに越してきたのだけれど・・・。 本当にいいのかな・・・?僕で。 約束をした時は颯介さんの思いを知ったばかりだということと、発情期のテンションに飲まれてしまったところがあったけど、後で冷静になって考えたら、僕はともかく、冴木さんの方は本当に僕で良かったのだろうか? だって僕、再婚になるわけだし。歳も結構いってるし(今年30歳)。初婚の冴木さんのご両親からしたら若くてキレイでフレッシュな人がいいと思うんだよね。おまけに冴木さんは高学歴で超有名会社の社長秘書だし、確か一人息子だし、なんと言ってもアルファだし、ご両親の期待はすごいんじゃないかな。 なのにこんなとうが立ったお古じゃ、ね・・・。 冴木さんのご両親にも祝福してもらいたい、けど・・・。 僕は颯介さんのご両親には受け入れてもらえなかったから・・・。 最後まで僕のこと、憎んでたな・・・。 それを思うと胸が痛い。 愛があればどんな障害でも大丈夫!と言うにはもう、僕は若くない。 また先に既成事実を作ってから報告に行って拒絶されたら、僕は・・・。 「あの・・・冴木さん。冴木さんのご両親にあいさつにいかなくてもいいんですか?」 今は僕の発情期待ちで、実は予定日を過ぎているというのに発情期はまだ来ていなかった。だからだろうか、今ならまだ間に合うのではないかと言う思いが頭から離れない。 またあんな罵声を浴びせられたら、僕は耐えられない。
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