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この街は、日々の生活をちょっとだけ手伝う事を目的としたロボットがいる街だ。
一日で終わる仕事もあれば数年かかる仕事もある。ロボット達は自分達が何体いるか、他のロボットはどういう仕事をしているか等、情報を共有する事はない。守秘義務の点からも新しいお家に行くたびに初期化される。
ロボットにも部品の個体差があるのか、ところどころ得意な動作と不得意な動作があった。
「きみはとても上手に洗濯物をたたんでくれるね。ありがとう」
「ジョウズ!」
利用者は、そのロボットが得意な動作を紙に書き、ロボットのお腹にあるボックスに入れる事が習わしだった。
最初は利用者アンケートとして問題点を書いて貰うためのボックスだったが、ある利用者がロボットを返却する時に
「この子はカップが割れないように、とても上手に物を置いてくれる子です」
と紙に書いてボックスの中にいれた。ロボットは重さを感知して
「ボクノオナカ、カミ、アル」
と整備の人に知らせた。これ以上ない推薦状だ。無骨な整備工がこの日はこっそり泣いたとか、泣いていないとか。その日工場は大宴会となった。
ロボットは「良い単語」「イマイチな単語」をAIで拾う事が出来るので、褒めている事が分かりやすいように出来るだけ簡単な文章で書いてあげる。お礼の手紙をスキャンした後、手紙はまたロボットのお腹のボックスに戻す。良い手紙だけお腹に戻そうと思ったが
「この子は上手に物を置けるけど、代わりに持ち上げるのが少々苦手」
など、大事な事を次の利用者にも知らせる事が出来るので、不得意な事を書いてある手紙もお腹のボックスに戻す事にした。ボックスの中がいっぱいになってくるとロボット専用のおもちゃ箱に移動させてあげた。
良い事ばかりじゃなかった。最初の頃、乱暴な利用者の所に派遣してしまい、ロボットがボロボロになってしまう事があった。営業係、派遣係は気づけなかった事をとても後悔した。自分達はロボットを守るべき存在でなくてはならない。次のお宅へ行くために初期化する前、ロボットに感想を聞く。
「お家どうだった?」
「イッショニ、オハナ、オミズアゲタ」
(本当に? 本当に大丈夫だった?)と肩をゆすぶって根掘り葉掘り聞きたい所だが、なかなか聞きたい事を聞き出すのは難しい。これまた整備工もメンテナンスをすれば不自然に壊れた部分などがないかどうかはある程度分かるものの、
「動きにくいところないか?」
と具体的に聞いたりする。
「ウチノコ、カワイイ、オジイサン」
「うちのこ?」
「オハナ、ウチノコ」
一緒にお水をあげたお花の事のようだ。
「いいジイさんっぽいな」
「ジイさん言うな」
「うちの子が一番カワイイけどな!」
「あったりまえだ! 可愛すぎてヤバい!」
「お手伝いも出来る! マジ天使!」
ロボットは感情がないので二人が何を喜んでいるのか全然分からなかったが、お腹のボックスを触って、オジイサンに「上手だね」と言われた言葉を反芻した。
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