1•美しい恩人

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食事へのこだわりも特にないので、ほぼ毎日カップ麺か、鍋で米を炊いて納豆で食べるかだし、寝るのも車中泊キャンパーがフルフラットにこだわって改造するのを知りつつ、寒さと痛みに耐えつつシートを倒すか、トランク部分でそのまま横になるかというものぐさぶりだったし、風呂も銭湯に入ったり、入らなかったり、街中にコインシャワーを見つけたら利用する程度だ。 物理的にも精神的にも何も持たないわたしは、仕事を失ったら自分すら蔑ろにしてしまうらしい。 「セルフネグレクトって言うんだけどな」 山の無料キャンプ場にタープを張るヒルマに言うと、 「セルフ…は自分。ネグレクトは…」 「虐待。」 虐待。 とヒルマは繰り返す。 「虐待はいけないことじゃん。」 わたしはそんなヒルマをスケッチしながら相槌を打つ。 少女漫画から飛び出してきた王子様のようなヒルマは、描きがいがある。 いいモデルを得た。 中身は…王子様とは程遠いけど。 「あれ。お姉さん、また来てくれたの。まーた下手な絵描いて」 管理人らしき日焼けした年配の男性が近づいてきた。 「えーっと、はい。」 「もしかして忘れた?もう3度目だけど」
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