空き地の秘密

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 二人で隣駅まで電車に乗った。ひと駅の時間感覚が都会とは違い、景色を何度も確認してしまう。通学で毎日乗っていたのに忘れるものだ。  香苗と昔話や、今の話を交換し合いながら、窓の外に目をやった。近くの街並みが勢いよく流れ、その向こうの遠景がゆっくりと移動していく。列車が進むにつれ、より馴染みのある景色に変わっていった。  気がつくと会話がやんでいた。急に話から離脱した俺に、香苗はどうしたのかとは聞かなかった。彼女に目を向けると、列車が動きはじめるような速度でゆっくりと、話の続きを始めた。  香苗とは駅で別れた。兄が車で迎えに来ているという。  俺はバスに乗るため停留所の列に並んだ。30分ほど歩いてもよかったが、引き出物の荷物が案外かさばる。実家には両親しかいないので、香苗のように迎えに来てもらうわけにはいかなかった。  バス停の前にあったこぢんまりとした書店はシャッターをおろしていた。看板が薄くなりほとんど店名が読めない。バス待ちの暇つぶしに毎日のように寄っていたのに、その文字を見ても書店の名前を思い出せない。  ロータリーを振り返ると、さびれた建物の群の中にいくつか、妙に新しいビルが立っている。建て替え中の駅舎のすぐ横には、今住んでいる街でも見かける名の、ビジネスホテルが高くそびえていた。色褪せた中に、鮮やかにライトアップされている。  俺は鼻から空気を吸い込み、吐き出した。知った匂いをかぎたかったが、よくわからなかった。  程なくバスが目の前に停車した。塗装が微妙に変わっている。よく見ると社名自体が変わっていた。古いものと、新しいものが混在して、交錯し、どこの街に来ているのかよくわからなくなる。  もう一度行き先を確かめ、バスに乗り込んだ。
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