空き地の秘密

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 俺は塀の中に踏み出そうとし、足を止めた。  背後に気配を感じた。  敷地内に目を奪われて気づかなかった。  目を向けると右の方から、短パンにTシャツ、サンダルばきという、近所にしか用がないという格好の男がこちらを見ていた。男はすぐに目をそらし、見なかったように通り過ぎる。俺も意味なく息を殺すようにして、背中を向けやり過ごした。  男は通り過ぎてから、振り返った。 「もしかして、長井?」  顔を上げようか迷った。本当は見た瞬間からかわかっていた。 「長井だろ。俺、木瀬。中学まで一緒だった」  木瀬は嬉しそうに近寄り、俺の顔を覗き込んだ。さすがに逃れられず、俺は顔を上げた。 「久し振り」 「ほんと久し振り。礼服? なに、結婚式?」 「ああ、高校の」 「そっか。……もしかしてここの話、聞いた?」  木瀬が塀に目をやり、言った。 「駐車場になるんだってな」 「うん。空き地の怪談もなくなるな」 「……そうだな」 「なあ、時間あれば、飯に行かないか。いきなりだけど」  木瀬がいいことを思いついた、というように声を弾ませて言った。 「ほんと、いきなりだな」  少し面食らいつつ時計を見ると、六時半を過ぎていた。実家には帰宅時間は未定と言ってある。メール一本入れればよかった。 「バス通り沿いのトンカツ屋、行こうよ。帰ってきたらとりあえずあそこだろ」  木瀬の言うトンカツ屋の外観が浮かんだ。この辺りでは有名な店だ。俺はまだ行ったことがなかった。実家にいた頃、外食などほとんどしたことがない。  木瀬は会いたくない相手だったが、嫌いだからではない。木瀬を見ると、俺は自分を責める気持ちから逃れられなくなる。 「こんなこと滅多にないよ。また長井に会えるかわかんないし。もしかしたら二度と会わないかもしれない」  確かにそうかもしれない。  俺は木瀬の妙な押しの強さに付き合うことにした。 「そうだな。行こうか」 「よし」  俺が実家にメールを打つ間、木瀬は電話をした。ごめん、と連呼し頭を下げている。特別親しかったわけでもない同級生を相手に、そこまでして飯に行くのかと思わないでもなかったが、もう承諾してしまったのだから仕方がない。
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