「思うのはあなた一人」

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 「さてと!なぁんで朝香ちゃんが義郎さんや裕美さんに相談もなく、突然引っ越ししちゃったのか教えてもらおうじゃないっ!」  「!!」  私が青海苔のおはぎを口に含んだところで夕紀さんの声が大きくなり、喉に詰まりそうになる。  「住んでるアパートはどうするの?まさかもう解約しちゃった??!」  「っ……!!いやいや、引っ越しは急な話だったんで!!」  ズイッと詰め寄る夕紀さんに、私は丁寧に事の経緯を話し始めた。    「…………なるほど」  私が急に3LDKの分譲マンションの高層階に住むようになった理由の一つに、4年7ヶ月前に夕紀さんがりょーくんに言い放った「あの発言」が絡んでいる事も正直に説明しなければならず、全てを話したところで夕紀さんはその場にしゃがみ込んで大きな溜め息をついていた。  「あのっ!夕紀さんを責めるつもりは無いんですよ、私も……それから、彼も」  「朝香ちゃんは良い子だからそう言ってくれるけどさぁ……でもやっぱり私の所為でしょ。笠原亮輔さんの心が不安定なのも、ド派手な金髪ウェーブも、引く程ジャラジャラつけてるピアスも」  「それは…………」  「あの時私があんな態度を取ったから……。  だから、彼の人生が変わってしまったのね」  夕紀さんの声がロートーンになっていき、本格的に落ち込んでしまったので私は焦って椅子から飛び降り、夕紀さんがしゃがみ込んでるキッチンへと回り込む。  「いえ!彼は……笠原亮輔さんは夕紀さんを責めてませんでした。  彼は皐月さんのことが大好きで、皐月さんの状況をなんとかしようとしたかったけど結果その行動が皐月さんの死を招いてしまったからって……とにかく彼は自分自身を責めていたんです。  今朝、彼と話をしてる時だってそうでした!『皐月さんだけでなく夕紀さんにも申し訳ないことをした』って、ずっと言ってて。  お付き合いしていた方や彼よりも……『皐月さんは誰よりも夕紀さんが一番大事だって言ってたから』って」  「えっ……?」  今朝出掛ける前に、りょーくんが夕紀さんに「これだけは必ず伝えて欲しい」と言われていた言葉を 夕紀さんに伝えた。  「皐月が『彼氏よりも私が大事』って笠原亮輔さんに……そう言ってたの?」  夕紀さんの目には涙が浮かんでいた。  「はい。だから彼は皐月さんを救いたかったみたいです。彼は当時の自分の幼さをものすごく嘆いていました。  『先生がお姉さんとこれから過ごす幸せな時間を奪ってしまってごめんなさい』と……いつも皐月さんの墓前に話しかけていたそうです」
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