「思うのはあなた一人」

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*  「この調子で歩いていたら待ち合わせ時間ギリギリになりそうだなぁ。やっぱり10分くらいの差があるよねぇ……」  昨日の朝はりょーくんと散歩がてらアパートとマンションを往復したり駅前のスーパーで食料品の買い出しに行ったりしてたんだけど、珈琲店までは流石に彼と並んで歩けなかった。  (一昨日も昨日も、夕紀さんはショックで「もりやま青果店」の2階に引きこもっていただろうからなぁ)    夕紀さんが仮住まいしている青果店2階の窓は大きめで、商店街周辺を見渡せてしまう。  私とりょーくんが散歩に珈琲店近くまで歩いてしまったら夕紀さんの視界に私達を無理矢理入れてしまう事になっちゃうんだ。  (まぁ、昨日は店で焙煎してたかもしれないけど、それでも鉢合わせの可能性はあったんだもんね……)  マンションからアパートまでは実際歩いてみたら徒歩10分で済んだ。  となると、今までなら珈琲店まで歩いて5分で済んでいたのがこれからりょーくんと過ごすマンションから通おうとすると15分くらいの時間が必要になる。  商店街に向かって大通りを真っ直ぐに歩くだけになったから、夜道は明るくて安全に帰る事が出来そうだけど、その代わり大学の授業が始まる明日から「21時15分までの1時間の過ごし方」が変わってしまう。  私が10分ロスしてしまうって事は、りょーくんの出勤時間もそれだけ変わる事にも繋がる。あのマンションからりょーくんがバイトするコンビニまでは少し近くなるんだけど、バイク通勤に換算したらほぼ誤差みたいなものだ。  私がこの事をりょーくんに直接言ってしまうと「出掛ける時間を10分遅らせるよ」なんて彼は簡単に言ってしまうかもしれない。……けどそれはそれで嫌だ。彼のルーティンを私の都合で乱したくはない。  「急いで帰りたい時は困っちゃうなぁ……自転車買おう」  今まで使っていた家電は今週末綺麗に掃除して、順次リサイクルショップへ持っていく予定だ。そこで得たお金を自転車の購入の足しにしようと私は決めた。
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