「思うのはあなた一人」

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 考え事をしながらお店に向かうと既に夕紀さんが店の前に立っていたので、サッと血の気が引く。  「おはようございます夕紀さん。ちょっと遅刻しちゃいました?私……」  一昨日は電話で雑にりょーくんの事を話してしまった事に少々腹を立ててるかもしれないし、もしかしたらたった今夕紀さんを待たせてしまった事で憤慨(ふんがい)のかもしれない……そんな予想を立てながら私が挨拶をすると  「そんな事よりもどうしたの朝香(あさか)ちゃん!アパートとは全然違う方向から歩いてきていたもんだから驚いたわよ!!」  と、全く別の意味でめちゃくちゃビックリした表情を夕紀さんはしていた。  「えっと……実は引越ししたんです」  「引っ越し?いつ?」  「昨日……いや、一昨日ですね」  「おととい??!」  2人でお店の勝手口側へ回りながら会話を続け、駐車場に停めている夕紀さんの車の助手席に乗り込んでシートベルトを装着しながら正直に答えると、運転席に乗り込みながら大きな声を出す夕紀さんの「今までに見た事もない美人のお姉さんのビックリフェイス」が視界いっぱいに映し出された。  「引越し?!なんで??突然??!っていうか一体どこに??義郎(よしろう)さんや裕美(ひろみ)さんには報告済み??」  そして夕紀さんから「お父さんとお母さんに引っ越しの了解を得たのか」という質問までもが飛び、私は何から説明すれば良いのか戸惑ってしまった。  (りょーくんのお墓参りの件を本当に話して大丈夫かなぁ……すごく心配だよ……)  その上、「私が笠原亮輔さんとお付き合いしてます発言」に全く触れないのが怖い。  「詳しくは霊園についたら話しますね」  取り敢えず今は保留にしておいた。  霊園に到着し、皐月(さつき)さんが眠る墓石の前に立った私は  「白くて大きな菊……」  花立(はなたて)の中心に生けられていた白くて大きな菊の花に目を奪われた。  「立派で素敵ね……。私の選んだリンドウが、菊の花を支えてるみたいに見える」  私の感想に対し、夕紀さんも同調したんだけど  「えっと……夕紀さんがお掃除してる時にはまだ無かったんでしたっけ?この菊……」  夕紀さんの口ぶりからして、「白い菊はお墓掃除の後に供えられたものなんだ」と理解し、同時に「そういえば夕紀さんからそんな話を聞いたんだった」と即思い出す。
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