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「そうよ。だから私は、わざわざ今日の何日も前にお墓掃除したの。別に日月の2連休中にしても良かったんだけどさぁ、『連休中に白い花の人がお墓参りしてくれるかな』って……敢えてその前に掃除と花の準備をして、その人には真ん中に白い花を供えるだけすれば良い状態にしておきたかったんだよね」
「夕紀さん……」
「今までだったらね、そんな気にならなかった。いつもと違う事をして白い花の人とバッティングしたら……なんて想像するのか怖かった」
「……」
「あれからもう4年7ヶ月経ったし、私も気持ちの余裕が出てきたのかもしれない。掃除してる間、誰もここに来なくて少し残念に思ったくらいよ。『でもやっぱり来てくれたんだ』って、今はすごくホッとしてるの」
「ホッと……してるんですか……?」
「うん。『今度はちゃんとその人と一緒に皐月のお参り出来たら良いな』って、今は思ってるのよ私……」
大きな菊が花立の中心に供えられ、菊の周りを黄色の小菊や青紫のリンドウで囲むように生けられている。
夕紀さんが両腕を伸ばして、「白い花の人」を受け止めているようなイメージが頭に浮かんで……凄く素敵なお供えだなと思った。
「そう……ですよね……」
これで私も……夕紀さんに「白い花の人」が誰なのかを明かす決心がついた。
「あの……!!夕紀さんっ!!」
「えっ?何?」
深呼吸をして両手に力を込めながら、私は夕紀さんに……皐月さんのお墓の前で口を開く。
「私が今お付き合いしている人が、笠原亮輔さんって……この前突然電話で伝えてしまってすみませんでした!」
深呼吸して、両手に力を込めながら、落ち着いて言葉に出来たのに、口を閉じた瞬間から緊張のドキドキが大きくなる。
「え?」
ドキドキが凄すぎて、思わず夕紀さんのお顔から視線を逸らしてしまった。
「……」
私のドキドキは更に大きくなる。
(ダメだ……この話を夕紀さんが優しく受け止めてくれないかもしれない。正直、この話を続けるのが怖い……)
夕紀さんの「白い花の人」に対する気持ちが、今回のお墓参りでより優しくやわらかくなってきてると実感しているし期待を持っている。だけど、私にとってはまだ4年7ヶ月前の夕紀さんの「言葉」の恐怖心が完全に拭えていなくって……。
私がここで正直に伝えた事でまた夕紀さんの心を乱してしまうんじゃないかという考えが私の脳内をグルグルと駆け巡る。
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