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夕紀さんの車に戻って霊園の駐車場から離れようとした時、赤い彼岸花に混じって白い彼岸花が咲いているのが目に留まった。
「白い彼岸花ってあるんですね。赤だけかと思ってました」
「白だけじゃなくて、黄色やピンクもあるらしいよ」
窓から指を差しながら言った私に、夕紀さんはハンドルを切りながら応えてくれる。
「ピンクの彼岸花って想像つかないです」
「そう?……確かに赤のイメージが強いもんねー。私も見た事ないけど、皐月が言ってたんだから間違いない筈よ」
「お花に詳しいですもんね、皐月さん」
私は窓の景色に視線を戻す。
そして、その白い彼岸花は赤の彼岸花と紅白に対をなして駐車場からお墓へと一直線に並んでいた事にも気付いた。
「あのね朝香ちゃん……私ね、秋のお彼岸ってこの花が咲くから特別感を感じるんだ」
「特別感……ですか?」
車が霊園を出る。
「都会に住んでいるとなかなか目にする機会ないけどさ……残暑が厳しい年も冷え込むようになった年も、どんな気候の年だって必ずこの時期に彼岸花は咲くから。
植物って気候に左右されがちな気がしてたけど、この花だけは毎年お彼岸を知らせてくれる感じがするんだ。
特別感って感じるのは、ただの私の個人的な気持ちなだけだよ」
「えっと……『また会う日を楽しみに』でしたっけ?彼岸花の花言葉」
昔、お父さんから教わった彼岸花の花言葉を思い出す。
「そうだね。赤い彼岸花は『情熱』というのもあるけど、悲しい意味だったり、死を意味するような花言葉が多いよね。『思うはあなた一人』って、一途な意味合いの言葉もあるけど、多分それも遺された人の心境って感じがするよね……」
「綺麗な花ですけど、悲しい花ですね」
「でも、死者を想うだけが遺族じゃないからね。皐月のお墓をちゃんと思い出してお参りするのってさ、皐月への悲しみを思うだけじゃなくて寧ろ『前に少しずつ進んでいくのを見守ってくれてありがとう』って、感謝しに行く時間だとも思うんだよね」
「感謝……ですか」
「彼岸花は、その時間を過ごす日を知らせてくれるから。だから私にとっては悲しい花じゃなくて、健気な花だと思うんだ。
だってこうして……今日も前に進んだじゃない?」
「…………」
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