「思うのはあなた一人」

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 「朝香ちゃんは、『お付き合いしてる彼の名前が笠原亮輔さんだ』って私に話をするのを、物凄く緊張したと思うの。だって私、4年7ヶ月前に笠原亮輔さんに向かって酷い言葉ばかり投げつけちゃったんだもの」  「……」  「優しくて健気で可愛い弟子の頭や心を傷めてしまってごめんなさいって今は思ってるよ」  「……」  「本当にありがとう朝香ちゃん」  車がお店に着いて、夕紀さんが助手席のこちらを向いてくれた。  「朝香ちゃん、彼氏と一緒に居て幸せ?」  夕紀さんの質問に私は「はい」とはっきり答えた。  「よし!それならオッケー!!早くお店でおはぎ食べちゃお♪」  「はい!」  夕紀さんの笑顔に私は嬉しくなって、一緒に『After The Rain』の中に入った。    今日は祝日で定休日なので、勝手口から店内に回って照明を全て灯す。  「(まかな)いで飲む煎茶の葉と急須を取ってきますね」  「そうだね、じゃお願い」  鞄を置きがてらバックヤードに戻って、茶葉と急須が入っている箱を取りに行った。  店内に戻ってカウンターにそれを置くと、キッチンでお湯を沸かしていた夕紀さんが急須に茶葉をそっと入れだした。  「仕事じゃありませんから私やりますよ」  夕紀さんがキッチンにいるのを制止しようとしたけど夕紀さんは首を横に振って  「こっち側の方が落ち着くから朝香ちゃんはカウンターに座りなよ」  と優しい微笑みを浮かべながら言ってくれた。  「じゃあ……お願いします」  店内でカウンターに座るなんて、4ヶ月前りょーくんと喧嘩して目を腫れさせた日以来だ。  「餡子(あんこ)ってコーヒーにも合うんだけど、おはぎにはやっぱり緑茶がいいよね」  急須でお茶を蒸らす間、夕紀さんは箱の蓋を開けて湯呑みを2つ取り出し温め出した。  「コーヒーもですが、夕紀さんが()れてくれたお茶の方が自分のよりもやっぱり美味しいです」  コーヒーだけじゃなく、緑茶も勝てないなぁと思いながらお茶を(すす)る。  「煎茶でもコーヒーでもそうなんだけどさ、自分で淹れるより他人に淹れてもらった方が美味しいものなのよ」  夕紀さんはそう言っていたけど……やっぱり味が全然違う気がした。
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