第1話 黒髪で口が悪くて美人の友人

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第1話 黒髪で口が悪くて美人の友人

「ねぇ、(ひな)さん覚えてる? あの日、あなたとした約束」  私は床の間に丁寧に雛人形を飾りながら呟いた。すると娘が背後から不思議そうに尋ねる。 「ママ、おひなさま…どうしてアタマがないの?」  お雛様を指差し不思議そうに小首を傾げる娘の(ゆい)。  私は立川芽依子(めいこ)。夫と娘と一緒に実家に帰省したところだ。年季の入った私の雛人形は、お雛様の頭だけが無い…。 「昔ね…、ママには黒髪で口が悪くて美人の親友がいたのよ」  私は娘に昔ばなしを聞かせることにした。膝の上に座りワクワクした表情で話に聞きいる娘の唯。 「親友は小さくて雪のように白い美しい顔と首をしていたのよ。でもね生首で首から下が無かったの!」  ノリノリで話していると、背後から割り込む声が聞こえてくる。 「芽依子(めいこ)ストップそこまで! 唯が泣いてる!」  振り返るとそこには慌てた様子の夫の春生(はるお)君の姿。見ると娘の唯は青ざめ涙目でぷるぷるしている。 「ごめんね唯、怖かったよね…」 「隣の部屋で寝かしつけてくるよ」  春生君は娘を抱っこすると手慣れた様子であやし始める。  首から上がないお雛様が飾られた部屋で怪談話されたら大人だって怖いわよね…。私は自分の馬鹿さに一人反省会のように項垂れる。 「芽依子の親友の話を、俺にも聞かせてくれる?」  程なくして、隣の部屋との襖が静かに開き、春生君が私のいる部屋に戻ってきた。どうやら娘は眠ったようだ。   春生君はイケメンではないが子煩悩でマメで、私には勿体ない。気遣いの人でフォロー力が半端ない、私の最愛の旦那様だ。    「私の親友がいなくなったのは、今から4年前のことなの…」  私が話始めると、春生君は後ろから私を抱きしめた。背中に感じる体温を心地よく感じながら、私は首から上が無いお雛様を一瞥し、昔話を続けた。
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