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「俺たちが東京駅を通過したのは、さっきで二度目なんだ」
「二度目?」
「ああ。今日の一時頃、俺は新宿を目指して東京駅から外回りの山手線に乗った。そこで同じく東京駅から乗ったあきちゃんと、先に電車に乗っていたお前と再会した」
「待ってくれ。それは何の話だ? 俺はさっき初めて東京駅から電車に乗ったんだ。先に乗ってたのはそっちの方だろ」
「それが、違うんだ。二度目と言ったろ。最初に会ったとき、お前は『東京駅で降りそびれた』と言った。それから全員で山手線を一周して一度目、もう一周して二度目もお前は確かに東京駅で降りた。そしてどういうわけだか降りるたびに直前の記憶をなくして帰ってくるんだよ。山手線を一周するのに大体一時間かかる。お前が戻ってくると時計の針も一時間巻き戻る。俺たちは同じ時間帯の山手線をぐるぐる回ってるんだ。お前にこの説明をするのも、二度目なんだ」
一気に喋りきった大樹は興奮して息を切らしていた。冗談を言っているようには見えない真剣な表情だ。
「でも、それならなんでお前らは降りないんだ? 原宿でも新宿でも好きな駅で降りればいいじゃないか」
「さっきも言ったけど、私たちは降りられないの」
横から静かにあきが言った。彼女はもう泣いていなかった。
「どの駅でも降りようとすると必ず何かに阻まれるの。人混みに押されたり、ドアが故障して開かなかったり、そもそも停まるはずの駅をなぜか通過したりね。駅員に助けを求めることもできなかった」
「馬鹿げてるけど、まるで世界中が俺たちが降りるのを邪魔してるみてぇなんだよ」
大樹は吐き捨て、それから真っ直ぐに俺を見据えた。
「何度も試したけど降りられるのはお前だけ、それも東京駅でだけなんだ」
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